天津爆発事故後も相次ぐ「爆発」は江沢民派の反撃か
ニューズウィーク日本版 / 2015年9月10日 16時42分
また「爆発」という言葉にも罠が潜んでいる。例えば「工場爆発」と報じられたニュースでも、実際には「建物に火事。中から爆発音が。黒煙が立ちのぼった」ぐらいの話であり、タイトルから想像されるような話ではないことが多い。上述の天津爆発事故後の事件リストで言えば、爆発という言葉から連想される大事故は13人が死亡した東営市の事故ぐらいだろう。
これは典型的なメディア・バイアスである。天津爆発事故があったため、通常ならば無視していた小さな「爆発」事故も日本メディアが取り上げるようになったため、あたかも中国で突然爆発事故が急増しているかのように見えてしまうのだ。
また、中国メディアにも別のバイアスがかかっている。注目されてナンボの世界だけに、ともかく「爆発」という目を引く単語を使いやすい傾向があるのだ。その象徴が2011年に話題になった江蘇省のスイカ爆発事件だ。「膨大剤」なる成長促進剤を使ったスイカが次々と爆発した......とのニュースで、「チャイナボカン」(中国ではありとあらゆるものが爆発すると揶揄するネットスラング)の代表例として、日本のネットでも話題となった。
ところが実際に調べてみると、スイカは爆発したというよりも破裂したというのが正しい表現だ。「膨大剤」も日本で普通に市販されているフルメット溶剤に過ぎない。フルメット溶剤の量を間違えたか、天候の影響でスイカが破裂してしまったというだけの話が、「爆発」という強いタイトルによって、海外にまで知られる大ニュースとなってしまったわけだ。
中国の製造現場における安全管理に問題があるのは事実だが、一方でメディア・バイアスによって虚構のリスクがイメージされているのも事実だ。こうした問題を解消するためにはどうするべきか。メディアが節度を持った態度で報道をすることがもっとも重要だが、加えて読者の側も、無理に煽らない地味な報道を評価することが求められているだろう。
[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
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