ISISを恐れるあまり難民に過剰反応するな
ニューズウィーク日本版 / 2015年9月17日 17時0分
シリア難民の流入が続くヨーロッパでは、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の戦闘員がこの難民の波に紛れ込んでいるのではないかという不安が再燃している。
右派のイギリス独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージュ党首は今月初め、過激派がEUに入り込む「恐れがある」と警告。「(難民に)同情するあまり自分たちの安全を危険にさらしてはならない」と訴えた。
しかし、国境警備の強化が求められるとはいえ、難民に対する警戒心をことさらにあおるべきではないと、専門家たちは指摘する。むしろ難民危機の政治利用をもくろむ反移民派に目を光らせる必要があるという。
「難民危機と、ISISがヨーロッパに密航している問題とを一緒くたにしていいものか」と、米オハイオウェズリアン大学のショーン・ケイ教授(国際関係)は疑問を呈する。「人道危機を政治的に利用しようとする人がいることは残念だ」
密航には難民と同じ船で
ここ数カ月、大勢のシリア難民が安全とより良い生活を求めてヨーロッパを目指している。シリア内戦で家を追われた人は約1100万人。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、シリアをはじめとする中東やアフリカから今年だけで既に38万人以上が地中海経由でヨーロッパに到達したという。
この中に過激派が紛れ込んでいるのではないかとの不安が生じているのは確かだ。
1月には、ISISの工作員がニュースサイトのバズフィードに対し、既に4000人ほどの戦闘員がヨーロッパに入り攻撃の機会をうかがっていると語っていた。戦闘員の密航を手伝ったという密輸業者もこの主張を裏付け、密航には難民と同じ船を使ったと話した。
ISISはこれまで欧米諸国を攻撃すると繰り返し脅してきた。反ISIS団体「ラッカは静かに殺戮されている」によれば、ISISは今年1月に英語を話す外国人部隊「アンワル・アル・アウラキ・バタリオン」を組織したらしい。目的はもちろん、英語圏での攻撃だ。
組織名の由来となったアウラキは、アラビア半島のアルカイダ(AQAP)の幹部にまで上り詰めたアメリカ人。11年に潜伏中のイエメンでアメリカのドローンに攻撃され死亡した。
難民の流入が問題になる以前、最も恐れられていたのは、ISISに共感して過激派になったヨーロッパ生まれのテロリストたちだった。ロンドンのシンクタンク「過激化研究・政治暴力国際センター」の1月の報告によると、ISISなどのスンニ派過激派組織に参加する外国人は2万人を超え、その約5分の1がヨーロッパ出身者とされる。
難民の流入で警備の重点が地元育ちの過激派から、EUに潜り込んできた中東出身の戦闘員に移るかは分からない。米戦略国際問題研究所のトム・サンダーソンは難民審査の強化を促す。
現在、ドイツは難民認定希望者すべてに対する手続きの開始を発表しているが、大方の国は難民の数に圧倒されるばかり。EUの入り口に当たるギリシャでは、手続きを待つ難民が長時間足止めを食らっている。
専門家は難民流入でリスクが高まるとしても、より大きな政策に悪影響を与えないことが重要だと指摘する。サンダーソンは言う。「過剰反応は避けるべきだ。警戒は必要だが、難民受け入れを拒むべきではない。ほとんどの人は真の安全とより良い生活を求めているのだから」
[2015.9.22号掲載]
マイケル・カプラン
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