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共和党候補カーリー・フィオリーナの政治的資質 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2015年10月2日 16時35分

 HP時代には何と言ってもコンパックの買収を進めました。しかし結果として、PCは価格破壊してコモディティ化していきました。同じくHPが収益の柱としていたプリンターも、マシンの価格を破壊する代わりにインクの継続販売で収益を得るという構造に邁進しましたが、結果は芳しくありませんでした。悪く言えば、ITの高度化によるデフレを生み出した張本人だとも言えます。

 ですが、彼女としては「その場、その場の勝負」に全力で「勝つ」ことしかない、そんな「走り方」をしていただけだと思います。そんな中で「IT化が進むとデフレが起きる」ということ、その果てには「無料サービスの裏に収益活動を埋め込む(グーグル)」とか「超高付加価値で勝っていくしかない(アップル)」というような21世紀型のビジョンがなくては「勝てない」ということには思いはいたらなかったのだろうし、そういった未来予測や理念の話にはそもそも適性はないのでしょう。

 このように「何でも勝ち負けの話」にして、必死で戦っていくというのは、アメリカの「開拓者精神」ひいては保守カルチャーに通じるものがあります。上院議員選挙に出た時も、自身のガン闘病経験を踏まえて「現職のボクサー議員は怖かったけれど、自分がガンのキモセラピー(理学療法)をやってからは怖くなくなった」などと発言していましたが、そういう「ギリギリの部分での一生懸命さ」というのは、アメリカの保守派の琴線に触れるのです。

 そのフィオリーナは、中絶問題の絡みでベイナー下院議長を辞任に追いやった、「中絶容認NGO」の「プランド・ペアレントフッド」への容赦のない攻撃に余念がありません。また麻薬問題では、娘を乱用で亡くした経験に基づいて「医薬用のマリファナも許さない」という厳格な姿勢で保守派の支持を得ています。

 そんなわけで、保守派として相当に右のポジションに立ち始めており、その様子が「コワモテ」の物言いも含めて「サマになってきた」彼女ですが、例えばHP時代に「令状なき国民への盗聴行為、ネット検閲」に協力したのではないかという質問に対して、「その通り。国民をテロから守るために私は正しいことをした」と回答するなど、相当に筋金入りになってきています。

 フィオリーナの「なりふり構わぬ」姿勢を見ていると、手段は選ばない(?)が理念やビジョンは依然として意識しているヒラリー・クリントンが「クリーン」に見えてくる――。そのぐらいにフィオリーナの「勝ちに行く」姿勢、あるいは「負けたくないという渇望感」というのは強烈です。

 このように、21世紀の複雑な世界におけるアメリカ大統領としての資質には相当に疑問が残るわけですが、今後の予備選においてはこのフィオリーナが、トランプ同様にかなり情勢を「引っかき回して」いくことは間違いなさそうです。

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