自分を捨てた父親を探したら、殺人鬼だった
ニューズウィーク日本版 / 2015年10月4日 14時40分
あの日のことを、あの体の中を恐怖が突き抜けていく感覚を、私はまるで昨日のことのように覚えている。(中略)私はリビングルームに行き、椅子に座り、テレビのリモコンを取り、チャンネルをどんどん進めてA&Eチャンネルに合わせた。私は犯罪のドキュメンタリーが好きだが、そのときは迷宮入りしたゾディアック殺人事件の特番をやっていた。その連続殺人について私は何も知らなかったので、面白そうだと思った。
人生が変わるとは思わなかった。
それは一瞬のうちに起きた。(308~309ページより)
テレビに映し出されたゾディアックの似顔絵が、自分に、いや父親であるヴァンにそっくりだったのだ。こうして父親が歴史的な殺人犯――それも犯人不明でいまだ未解決の連続殺人事件の犯人――だったことを知った著者は、さまざまな手段を使って捜査関係者、遠い親戚、あるいは父親の学生時代の友人などを探し、ゾディアックの本質に近づこうとする。
心を打つのは、"捨てられた子ども"であった著者の執念だ。冷静に、淡々と「すべきこと」をしているようにも思えるが、その背後には「父親について知りたい」という子の思いがはっきりと見えるのである。
最終的に行き着いたのは、タクシーの運転手が「ここはとても、とても貧しい場所です」というメキシコシティの墓地だった。1984年5月20日、父親はかの地のホテルで、「胃の内容物逆流が原因の気道閉鎖による窒息」で亡くなっていたのだった。少し意外でもある死因について著者は「(自分自身の嘔吐物を喉に詰まらせて死んだというのは)ある意味、ふさわしい終わり方だ」と記しているが、犯人の素性についても不明点の多かったゾディアック事件の真実が、こうして明かされたことは大きな意味を持つだろう。
読後に残ったのは、いくつかの違和感だった。まずは、ヴァンの内部に沈殿する虚栄心の強さが、我が国における重大な殺人犯のそれと、どこか似ている気がしたこと。そしてもうひとつは、ゾディアック事件に対して昔ほどの衝撃を受けなくなっている自分がいたことだ。日常的に報道される殺人事件に慣れ過ぎてしまったからなのかもしれないが、やはり複雑な気持ちではあるのだ。
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『殺人鬼ゾディアック
――犯罪史上最悪の猟奇事件、その隠された真実』
ゲーリー・L・スチュワート、スーザン・ムスタファ 著
高月園子 訳
亜紀書房
印南敦史(書評家、ライター)
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