ロシア兵を待ち構えるシリアのアルカイダ
ニューズウィーク日本版 / 2015年10月5日 17時40分
シリアを拠点に活動するアルカイダの下部組織ヌスラ戦線は、ロシア兵一人につき300万シリア・ポンド(1万5900ドル)の懸賞金をかけた。ロシアがシリアのISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に対して初の空爆を行った翌日のことだ。
ソーシャルメディアで拡散されているポスターによれば、1万5900ドルのうち、ロシア兵を捕えた戦闘員に与えられるのは5300そる、残りの1万600ドルはその戦闘員が所属する部隊に与えられるという。
ヌスラ戦線の精神的支柱でスポンサーとも考えられているアブ・ハッサン・アルクウェイティもツイッターで「英雄的な聖戦士よ、ロシア兵を人質にした者には100万シリア・ポンドを使わそう」と呼びかけ、多くの聖戦志願者がそれをリツイートした。
ロシア介入に色めき立つ過激派
懸賞金は多額とは言えないが、それでもシリア北部の部隊には貴重な資金源になると、米インターネット監視グループ、フラッシュポイント・インテルの中東・北アフリカ調査分析部長のレイス・アルクーリは言う。「彼らをその気にさせるのは必ずしもカネとは限らない」とアルクーリは言う。「それでもこれは、多くの戦闘員を動かし作戦を遂行するには十分なカネだ」
ロシアがシリア内戦に介入してきたことで、ヌスラ戦線は恐れるどころか色めき立っている。懸賞金をエサに旧ソ連諸国から聖戦士を募ろうとしている可能性が強いと、イスラエルのリスク管理会社レバンティン・グループの安全保障担当アナリスト、マイケル・ホロウィッツは言う。
「懸賞金は、多くの聖戦士を引き付けるためのものだ」と、ホロウィッツは言う。「ヌスラ戦線にとってはまたとない機会だ。新兵を増やすことで、今は寄せ集めのグループを連帯させることができる」
アルカイダが下部組織を通じてロシアと戦うのは、80年代に旧ソ連がアフガニスタンに軍事侵攻して以来、2度目だ。アフガン戦争でソ連に勝利した記憶は今も、シリア北部のイスラム過激派を1つにまとめる力になるだろう。「ロシア人捕虜は、ISISとの死闘で大きな戦力になる」と、ホロウィッツは言う。
アルカイダのシリア支部と、ロシアが国内の治安リスクとして警戒するコーカサスの過激組織のには、密接な関係がある。
対ロシアでまとまるテロリストたち
シリア北部には、旧ソ連からきたイスラム過激派グループが2つある。1つは旧ソ連のウズベキスタン系で、もう1つはロシアからの独立を目指すチェチェン共和国系。ロシアが軍事介入に備えてシリアでの軍備増強を始めた数週間前、両グループとも公式にアルカイダに加わった。
またアルクウェイティはツイッターで約3000人のフォロワーに対し、アブ・ジャバー・ダゲスタニに続け、と書いた。ダゲスタニは、ロシアからの独立とイスラム国家の建設を目指す武装組織、コーカサス首長国の指導者だ。
コーカサス首長国はロシアで非合法化され、イギリス、アメリカ、国連にもテロリストとみなされている。ロシア連邦保安庁によると、そのリーダーの多くが、6月にISIS忠誠を誓った(ダゲスティニは、ツイッターで「噂を何でも信じるな」と書いている)。
こうしたロシア人テロリストの帰国を恐れたからこそロシアは軍事介入に踏み切ったとも言われるが、実際にはアルカイダやISISに追いやってしまったとすれば、皮肉だ。
ジャック・ムーア
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