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「一億総活躍社会」の目標設定は意外とシリアス - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2015年10月13日 16時15分

{(34%×2.07 人)+(66%×89%×2.12 人)}×0.938≒1.8 (2010年出生動向調査をベース)

ということで「1.8」という数字が出てくるわけです。

 つまり、希望しない人に無理に結婚や出産を強制することなく、国民全体として自分の人生設計としての「希望」を足し算していくと、1.8という数字が出てくる、そして現状の1.4との差「0.4」を政策で埋めていくという話です。

 もちろん、その具体策が大事であり、そこが空回りしてはダメなわけですし、実際に「0.4」の底上げというのは、ありとあらゆる政策を動員し、日本人の働き方や家族観まで踏み込んだ改革なくしては不可能です。そうではあるのですが、目標設定としては具体的であり、根拠もある話だと言えます。

 3番目の「介護離職ゼロ」というのも、唐突に出てきたという印象がありますが、こちらも極めてシリアスな話です。親などの介護を引き受けた結果、働き盛りの男女が短時間勤務などに追い込まれて、最終的にはフルタイムの職を失うケースが増えており、社会問題になっていますが、この点にフォーカスして「離職ゼロ」を達成しようと言うのですから極めて具体的な話です。

 その方法論としては、厚生労働省としては「男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法に基づく紛争解決援助制度」というのを推進しようとしています。具体的には、都道府県の「労働局雇用均等室」などを主体として、労働者と事業主との間で、「男女均等取扱い、育児・介護休業、パートタイム労働者の雇用管理等」について「民事上のトラブル」が生じた場合、「解決に向けた援助」を行うというものです。

 つまり、従来の「家族的経営」だとか「終身雇用に縛られた滅私奉公」あるいは「家族の介護による日本的福祉」といったカルチャーで問題をごまかすのはやめるという話です。そうではなくて、「介護離職」などの背景にある問題は「雇用主と労働者の間の民事トラブル」だとして、その「解決を援助する」というのです。政府がこうした発想で問題に向かっていくということは、現時点では始まったばかりではありますが、注目して良いと思います。

 一つ目の目標「600兆円」の根拠と期限については曖昧かもしれませんが、「希望出生率1.8」と「介護離職ゼロ」という目標設定は極めてシリアスなもので、安倍政権が本気で取り組むのであれば、真剣な政策論議の対象とする価値は十分あると思います。

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