シリア空爆の深遠なる打算
ニューズウィーク日本版 / 2015年10月20日 16時30分
内戦の嵐が吹き荒れるシリアで、ロシアがテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)掃討を名目とする空爆作戦を開始した。これは驚くべき決断とは言えない。
ロシア政府がシリア空爆のシナリオに備えていることが、初めて明らかになったのは8月半ば。ロシアの軍事顧問団がシリアを訪問し、現地の空港にロシア軍戦闘機の配備が可能かを検討していると、複数のメディアが報じたときだ。
その後、アサド政権の支配地域に位置するシリア北西部ラタキアなど、3カ所の飛行場の再建工事が行われているとも報道された。こうした情報を受けて、ロシア政府が軍事作戦の準備をしているとの観測は高まるばかりだった。
先月後半に至って、決定的なデータが登場した。シリアに派遣したロシア軍戦闘機と軍用ヘリの総数が、操縦を担当するシリア人パイロットの総数を超えている──。もはやロシア政府の意図に疑いはなくなった。
先月30日、ついにロシアはシリア空爆に踏み切った。
シリアで軍事作戦を行うという決断は、シリア内戦をロシアに都合のいい条件で終わらせるという戦略の論理的な帰結だ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は内戦終結の在り方について、シリアの既存の政府機関や制度に基づき、政権と反体制派の「健全な」勢力が権力を分かち合う形で和平を結ぶべきだとの主張を続けている。つまりバシャル・アサド大統領の退陣を、和平交渉の前提条件とするのは絶対に認められないということだ。
ロシアに言わせれば、アサドはISISに立ち向かい、シリアを完全崩壊から救うことができる唯一の人物。それに対して欧米や多くの中東諸国は、アサドをシリア問題の解決に不可欠の要素ではなく、問題を生んだ原因そのものと見なしている。根本的に食い違う2つの見方が災いし、和平交渉は遅々として進まない。
こうした現状を変えるべく、ロシア政府は今や二重路線で事に当たる構えだ。
ロシアは今年の春以降、外交努力を強化し、欧米やペルシャ湾岸諸国をはじめとする中東の国々に、和平協定をめぐる自国の主張の受け入れを迫っている。その一方で、交渉を自らに望ましい方向へ進展させるまでの時間稼ぎとして、軍事的支援を通じてアサド政権の延命を図っている。
こうした状況を考えれば、シリアでの軍事作戦は、ロシアが中東で繰り広げるゲームの切り札になるかもしれない。その理由は3つある。
懸念は軍事作戦のコスト
第1に、ロシアの軍事行動のおかげで、アサド政権が生き延びる確率は確実に高まる。ISISなどシリア領内の過激派組織の打倒を掲げるロシアだが、シリア政府軍の援護目的での空爆を行わないと考えるのは単純過ぎると、ロシアの軍事専門家でさえ口にしている。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
「予測不能な男の再登板」ウクライナ・ガザ・中台・朝鮮半島・・・世界の安全保障の気になる行方は?
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月13日 14時16分
-
レバノン停戦交渉に進展、ロシアが支援可能=イスラエル外相
ロイター / 2024年11月12日 7時50分
-
最も忘れられているサヘルの危機 【舟越美夏✕リアルワールド】
OVO [オーヴォ] / 2024年11月9日 11時28分
-
北朝鮮軍に"頼る"ロシアの姿勢が激変した事情 ついに交戦開始、北朝鮮側が得るものは?
東洋経済オンライン / 2024年11月6日 10時0分
-
フーシ派がロシアの悪名高い武器商人と手を結び、紅海はますます危険の海に
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月29日 11時6分
ランキング
-
1中国ハッキング疑惑、米国史上最悪と上院情報委員長
ロイター / 2024年11月25日 12時1分
-
2トランプ氏の復権は「悲しみ」とメルケル氏…「好奇心旺盛だが、それは自分を強くするため」
読売新聞 / 2024年11月25日 9時20分
-
3《トランプ圧勝の大統領選からアメリカがみえる!》「なぜ火曜日に投票?」「どうして選挙人という存在が生まれた?」から「ハリスに待ち受ける屈辱」までジャーナリストが解説
NEWSポストセブン / 2024年11月25日 11時15分
-
4焦点:ロシアの中距離弾道弾、西側に「ウクライナから手を引け」と警告か
ロイター / 2024年11月25日 14時14分
-
5パキスタンで宗派間抗争、82人死亡 7日間「停戦」へ
AFPBB News / 2024年11月25日 12時54分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください