世界を滅ぼすドイツ帝国?いや、今こそ日独同盟の勧め
ニューズウィーク日本版 / 2015年11月12日 16時0分
先月中旬に行われた習近平(シー・チンピン)中国国家主席の訪英は、イギリスの「外交漂流」を印象付けた。その前の訪米では議会演説が認められず、不完全燃焼で帰国した習が、イギリスではもろ手を挙げた歓迎を受けた。
イギリス政府は人権問題を棚に上げ、アメリカへの当て付けのごとく議会演説までさせる念の入れよう。訪英直後には南シナ海に中国が築いた人工島の12カイリ(約22キロ)内を米艦が航行。シリアでロシアの爆撃が続き、ヨーロッパではウクライナ問題や中東からの難民殺到という情勢のなか、アメリカの最良の同盟国、米欧の懸け橋であるはずのイギリスの姿はかすんでしまった。
イギリスはロンドンに世界最大の金融市場シティーを抱える。ポンドが基軸通貨でなくなった戦後、シティーは海外を循環する米ドルを右から左に動かすことで、90年代には英GDPの20%相当の利益をたたき出した。リーマン・ショック後は米ドルから人民元を動かすことで起死回生を狙う。習も、中国以外では初となる人民元建て国債の発行をシティーで始めると明らかにして、イギリスの心をくすぐった。ここには、オズボーン英財務相の思惑ばかりが前に立ち、外務当局の顔は見えない。
来年、日本はG7首脳会議の議長国を務める。新興国経済は中だるみ、20カ国・地域(G20)は調整能力欠如を露呈するなか、G7の役割は重要になっている。イギリスが漂流する今、日本はヨーロッパの軸をどこに求めるか。対日関係を重視してきたオランド大統領のフランスと共に、ヨーロッパの盟主になりつつあるドイツとも意思の疎通、連携に努めないといけない。
フランス人学者の「空想」
日独が置かれた地政学上の地位は驚くほど似通ってきた。かつてはロシアが無力化し、ドイツにとって対米同盟の切実性は低下していた。だが、今ではウクライナやシリアでロシアがアメリカとの対抗上、武力行使をためらわない姿勢を見せている。ドイツにとってアメリカとの同盟は再び必須となった。
それは拡張主義に転じている中国の隣に位置するが故に、対米関係強化を必要とする日本とよく似ている。筆者は先月ベルリンを訪れたが、ドイツの外交当局は今、アメリカとの関係を再活性化しようと考えている。ベルリンの空気に身をさらしてみれば、フランスの人口学者エマニュエル・トッドが『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』で述べるような、ドイツの単騎独行が空想物語であることはよく分かる。
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