不法移民、トランプが強制送還部隊の創設を提唱
ニューズウィーク日本版 / 2015年11月13日 16時20分
不動産王の共和党予備選候補ドナルド・トランプの移民政策は強制送還だ。
不法移民に対する差別発言で共和党の予備選をひっかき回してきたトランプが、新たなネタを持ちだした。アメリカに滞在する不法移民を本国に強制送還する「強制送還部隊」を創設するというのだ。
「強制送還部隊を作って、人道的な方法で送り返す......。何百万という人々がアメリカに来たがって不法に入国しようとするのを止めなければならない」と、今週MSNBCのニュース番組に出演したトランプは語った。
トランプは、それがどのような組織になるか詳細は語らなかった。例えば、米軍部隊で構成されるのか、文民の執行官なのか、それともメキシコ国境をパトロールするボランティアの自警団なのか――。
トランプの移民政策は、これまでにも賛否両論を巻き起こしてきた。数カ月前にはFOXニュースのニュースキャスター、ビル・オライリーが、メキシコの出費で国境に巨大な壁を建設するといったトランプの移民政策を現実的でないと批判。トランプはFOXが自分を中傷していると応戦した。
その2人が今週、再びぶつかった。FOXビジネスネットワークが主催した共和党候補者のテレビ討論会で、トランプはメキシコからの不法移民をトラックに乗せて一斉検挙したアイゼンハワー政権の政策を称賛した。「ウェットバック作戦」と呼ばれたこの政策(メキシコ移民を指す「ウェットバック」という言葉は、現在は差別的表現とみなされるためトランプも使わなかった)は、やり方が乱暴で死者も出したため、現在では人権侵害にあたるという見方もある。
オライリーは、「(ウェットバック作戦は)移民を本国に蹴り返すような乱暴なやり方だった」と詰め寄った。
他の共和党候補で中道寄りのジョン・カシックやジェブ・ブッシュは、ヒスパニック系有権者を敵に回すのを止めてくれるようトランプに懇願した。ジェブは、「そんな発言をすれば、(民主党の)ヒラリー陣営が手を叩いて喜ぶだけだ」と諭した。カシックも、「(不法移民を)引き立てて国外に退去させるなど、馬鹿げた議論だと皆わかっている。大人の議論ではない」と、トランプに反論した。
1100万人を送還する予算と人員は
この提案は、予想通りツイッターでも「人権侵害だ」という非難を浴びている。
しかしどうやらトランプの発言の趣旨は、強制送還の計画が「現実的」だと反論するところにあったようだ。オライリーから1100万人いる不法移民を送還する予算と人員をどうやって捻り出すのか突っ込まれ、アイゼンハワーの政策を実例として持ち出して「実現可能」だと主張した。ただし、この主張の正当性も歴史的に見れば疑わしい。当時送還できたのは100万人で、1100万人には遠く及ばないからだ。
遂行困難な政策を提唱した保守系候補は過去にもいる。2000年の大統領選で共和党のジョン・マケインは、自らが「麻薬戦争の最高司令官」になり、米軍部隊を投入して密輸を止めると言っていた。トランプの強制送還部隊も勇ましいだけで、複雑な問題の解決策にはなりそうにない。
ジャック・マルティネス
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