コストゼロ&シェアの時代のマネタイズ戦略
ニューズウィーク日本版 / 2015年11月19日 16時20分
しかし、再現性は、これからは必ずしも高い価値につながるとは限らない。なぜなら、再現可能な価値は、常に「コピー」の可能性を含み、強烈な価格低減圧力にさらされていくからだ。それは、YouTubeによって音楽業界が陥った危機と同じである。
今、ビジネス社会に変化が訪れている。それは「一回性の価値」の希求だ。分かりやすく言えば、人生でたった一度しか起こらない何か、を価値の担保とする志向性である。
例えば、文芸やアート、歴史などは、まさに一回性の価値に担保されている領域だ。小説に書かれている物語、そして、絵画に描かれる対象は、もう二度と起こりえない、描き得ない輝きを価値の背景に宿している。
P.F.ドラッカーは、これを「分析から知覚へ」という表現で語っている。この「知覚領域」こそがこれからの重要な価値になることを予言していた。知覚というのは、感覚ということであるが、より厳密に言うならば、「その瞬間、一度きりの命の実感」とでも言えようか。
ホテルからAirbnbへ。これも「再現性から一回性へ」と言い換えていい。いつも変わらぬ機能性を提供してくれるビジネスホテルから、そこにしかない部屋、一度しかないホストとの出会いに価値を置くわけである。
最近Airbnbでは、料理や観光、スポーツなどのアクティビティの予約が可能になった。宿泊場所を提供するホストが、自身の得意な領域で、宿泊者にサービスを提供できる。これによって、Airbnbは21世紀の「働くプラットフォーム」へと進化を遂げた。しかしこれも、その場所、そのホストとの"一回性の価値"が背景に宿っていることは言うまでもない。
重ねるが、再現性のあるもの、コピーできるものの価値は驚くほど速く低下していく。よってビジネスにおいては、この一回性に担保された価値を、どのように事業の中でデザインするかが重要になっていくわけである。
最もテクノロジーの影響を受けやすい音楽業界ではすでに、アーティストは、曲の販売というよりもライブで稼ぐ時代になっている。それは、ファンとの「関係性」とライブ会場という「場」に根ざした一回性によってマネタイズされる時代へと変化したことを意味する。
ビジネスは、普遍性と再現性に根ざした「機能性」でマネタイズする時代から、関係性と場所性に根ざした「一回性」によってマネタイズする時代へと徐々に舵を切ろうとしているのだ。
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長沼博之 著
ソシム
長沼博之(イノベーションリサーチャー、経営コンサルタント、Social Design Newsファウンダー)
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