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「上に行くエスカレーター?」と迷わせたら、デザインの負け

ニューズウィーク日本版 / 2015年11月20日 16時5分

◇ ◇ ◇

2.迷いのバグ(パープレキシティ・バグ)

 目的に向かって行動しようとしているのに、迷いが生まれて動きが止まってしまう、または逆戻りしてしまうのが迷いのバグです。

 第1章で書いたように「その行為が流れるように行われる」のが美しい行為であり、私たちがめざすデザインです。迷いのバグがあると行為の美しさは途切れ、損なわれます。

 多くの人が出会うバグに、エレベーターの開閉ボタンがあります。私たちはドアが閉まりそうなときに誰かが乗ろうとするのを見ると、あわてて「開」ボタンを押します。しかしエレベーターによって開閉ボタンの位置が逆だったり、開閉の文字が一瞬読み取れずに迷ったりして、うっかり「閉」ボタンを押してしまう場合があります。特に漢字になじみのない外国人や、弱視の人には同じ文字に見えるかもしれません。

 漢字の代わりに▲で開閉を示すボタンはさらに迷いを生じさせています。一見すると内側に角が向く「閉」のサインのほうが空間が広く見え、開いているように感じてしまうからです。こういったバグはきれいなフォントやレイアウト、美しいピクトグラムとは違う次元の問題だということがわかると思います。本来は、デザイナーの仕事でこういった迷いのバグはなくすべきなのです。

 そこで以前、学生に「エレベーターのボタンデザインを考えよう」と課題を出して、みんなでアイデアを出し合ったことがあります。

 出されたデザインに学生が投票して圧倒的な一位に輝いたものがありました。それは目と口で表現された顔がベースになっていて、「開」は「口がパカッと開いている顔」、「閉」は「口がギュッと閉じられている顔」なのです。開閉の概念が子どもにも伝わるデザインで、アイコンのシンプルさを持ちながら温かみが感じられるのです。

 迷いをなくす、というねらいであれば、「扉」という元のプロダクトの常識や形状にこだわらなくても目的が果たせます。この学生のデザインはありがちな壁を打ち破って評価を集めた好例でした。

 ビニール傘にも迷いのバグが発生します。傘立てに入っているとどれも同じで、自分の傘がわからなくなります。そこであるプロジェクトで考えたのはビニール傘のカスタマイズでした。手頃な値段でもビニール部と持ち手のデザインを選ぶことができるようにし、同じ組み合わせに出会わないくらいの組み合せで展開させるのです。これも解決法の一つです。

使えなくなるパーティ会場のグラス

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