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ピケティ理論はやがて成立しなくなる

ニューズウィーク日本版 / 2015年11月25日 19時2分

シェアリングエコノミーで資本が不要に

 ところが新しい資本の時代においては、「お金」の果たす役割が相対的に低下してくる。

 最近の起業家が、新しい事業をスタートするにあたって必要とする初期投資額は、おそらく20年前の数十分の一になっている可能性が高い。ほとんどのビジネスリソースがネットを使って安価に調達できるため、起業家は初期投資額を最小限に抑えることが可能となっているからだ。

 これは大規模なシステムを使ったスケールの大きいビジネスでも同じである。このところ情報システムの世界では、自社内にサーバーを設置せず、アマゾンが提供するクラウドサービスに、システムを丸ごと移管するケースが急増している。

 こうしたクラウドサービスは、システムが必要とする処理能力を、即時に、そして柔軟に設定できる。たとえば、最初は安い金額で従来のサーバー1台分の処理能力を購入し、テスト的にウェブサイトを立ち上げてみる。もし急激にサイトの人気が上昇し、アクセスが殺到する状況になれば、すぐに追加料金を払って、サーバー50台分の能力まで増強するといったことが可能となっているのだ。

 最近は大企業においても、小規模な新しいサービスを無数に立ち上げ、生き残ったものだけを継続させるというやり方が当たり前になっている。こうした時代においては、お金と時間をかけて、自社専用のシステムを作るという行為はコスト的に割が合わないのだ。

 そうなってくると、システムに対する投資はアマゾンのような事業者に集中することになるため、投資効率が圧倒的に高くなる。経済全体において必要される初期投資額は大幅に減ってくるだろう。

 こうした動きは、情報システムのようなバーチャルな世界だけにとどまらない。最近は、あらゆるモノやサービスを共有する、シェアリングエコノミーが急成長している。多額の初期投資が必要であった工場や車両、建物などに至っても、必要に応じて調達することが可能となるだろう。

 ITを使って、世の中に必要なものを、究極的なレベルまでシェアすることになれば、従来、必要と思われていたインフラ投資の過半数が無駄なものになってしまうかもしれない。さらに言えば、多くのビジネスで初期投資が不要ということになれば、これまで資本家が持っていたパワーすら変化する可能性がある。

 資本主義の主役であり、市場の中で圧倒的なパワーを持っていた資本の持つ力が、相対的に低下するのである。これは、資本主義が登場してから、初めての現象となるかもしれない。

※第2回:だから、もう『お金』は必要ない はこちら

<加谷珪一『図解 お金持ちの教科書』抜粋シリーズ>
ニューストピックス「図解 お金持ちの教科書」

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