歴史の中の多様な「性」(2)
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月1日 17時26分
たとえば、一五七九年(天正七)に来日したイタリア人宣教師、アレッサンドロ・ヴァリニャーノは「彼らはそれ(男色)を重大なことと考えていないから、若衆たちも関係のある相手もこれを誇りとし、公然と口にし、隠そうとはしない」と批判している(『日本巡察記』平凡社)。一六一九年(元和五)来日の第八代オランダ商館長フランソワ・カロンも「貴族の中には僧侶並に男色に汚れている者があるが、彼らはこれを罪とも恥ともしない」と記している(『日本大王国志』平凡社)。
まあ、同性愛を背教行為として厳しく禁じているキリスト教の宣教師が日本の男色文化を口を極めて批判するのは当然のことだが、商館長がヨーロッパから極東までの長い道のりで見聞してきた国の中で、とりわけ男色文化が盛んなのが日本であったことは間違いなさそうだ。
ところで、私は男色文化の形態を年齢階梯制と異性装(女装)を基準に四類型化している。
Ⅰ 年齢階梯制を伴い、女装も伴う男色文化
Ⅱ 年齢階梯制を伴い、女装を伴わない男色文化
Ⅲ 年齢階梯制を伴わず、女装を伴う男色文化
Ⅳ 年齢階梯制を伴わず、女装も伴わない男色文化
この四類型で、ほぼすべての男色文化が類型化できる。Ⅰは中世寺院社会の女装の稚児や江戸時代の陰間などに、Ⅱは安土桃山〜江戸時代の武士階層の「衆道」、薩摩藩の「兵児二才」制、明治〜昭和戦前期の美少年愛好(硬派)の学生文化など、Ⅲは現代の「ニューハーフ」や東京新宿(歌舞伎町・新宿三丁目)の女装コミュニティなど、Ⅳは現代の東京新宿二丁目「ゲイタウン」などに見られる形態に相当する。
ちなみに、年齢階梯制を伴う男色とは、能動の側としての年長者と受動の側としての年少者という役割が厳格に決められている男色の形である。年少の少年が成長して年長になり、あるいは元服して大人になると、今までの受動側から能動側に転じて、年少者を犯す側に回る。こうして年少者=受動─(成長・元服)→年長者=能動というサイクルが繰り返され、それによって男色の精神と肛門性交の技術が継承され永続性が保たれた。つまり、年齢階梯制は、男色という性愛形態を社会の中に安定的に存在させるための重要な仕組みであり、前近代の日本の男色は、年齢階梯制を基軸にしたシステムだった。
重要なことは、日本の伝統的な男色文化では、年齢階梯制を伴わず、女装も伴わない形態(Ⅳ)、つまり大人の男同士の性的関係は、個人の欲望としてはあっても(たとえば、平安時代末期の最上流貴族藤原頼長)、社会システムとしては存在しなかったということだ(三橋順子「『台記』に見る藤原頼長のセクシュアリティの再検討」『日記・古記録の世界』思文閣出版、二〇一五年)。
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