フランスがマリで直面するもう1つの対テロ戦争
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月3日 17時21分
パリ同時多発テロ直後のフランスに再び衝撃を与えた、西アフリカ・マリの首都バマコで起こった高級ホテル襲撃事件。早朝のラディソン・ブル・ホテルの宿泊客らを襲ったこの事件は、イスラム過激派組織がマリ国内で深刻な脅威となっていることをあらためて示した。同時に明らかになったのは、遠く離れた旧宗主国──フランスに対する攻撃でもあるということだ。
先月20日午前7時頃、少なくとも2人の男が自動小銃を手にホテルを襲撃し、朝食時のレストランに突入した。逃げ惑う十数人が狭いエレベーターに駆け込むと、内部に銃を乱射。襲撃犯はコーランの一節を暗唱できた者だけを解放していたという。
事件は特殊部隊の突入で幕を閉じたが、19人が犠牲となり、襲撃犯2人の死亡が確認された。
マリにおけるイスラム過激派との戦いは、数年前に「終結した」とされていた。12年にバマコでクーデターが発生し、過激派が台頭したのを受け、オランド仏大統領は13年に軍事介入を決定。アルカイダ系組織の掃討を開始し、北部の都市部を奪還した。昨年、仏軍当局者は「過激派をほぼ全滅させた」と発言している。だが明らかに、彼らは生き残っていたようだ。
フランスは今も、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)によるパリのテロの衝撃から立ち直れずにいる。その1週間後のマリ襲撃で、対テロ戦争で主導的役割を果たすフランスは、重過ぎる犠牲を払っていることを思い知らされた。
「今やフランスは、十字軍の中心的存在だと受け止められている。つまり、テロ攻撃のターゲットにされるということだ」と、英王立統合軍事研究所(RUSI)上級研究員のラファエロ・パンツッチは言う。
マリでは今年に入り、同様の襲撃事件が頻発していた。今回の首謀者とされるのが、13年1月のアルジェリア人質事件の主犯で、米軍の空爆で死亡したともささやかれるモフタール・ベルモフタール。彼が13年に結成した武装組織アルムラビトゥンが、犯行声明を出している。
頼りにならないマリ軍
今回の襲撃を生んだ原因は何か。フランスの油断や過激派の驚異的な回復力のほかに、政府の統治能力が脆弱な貧困国のマリで治安部隊育成に手間取り、過激派に猶予を与えたことが挙げられる。
現実には、フランスは軍事介入後も一度としてマリ北部に平和をもたらせていない。帝国主義と批判されるのを恐れるフランスは、治安悪化にもかかわらず仏軍駐留を縮小し続けてきた。
マリ軍も頼りにならない。数年にわたり米軍の訓練を受けたものの、12年には過激派との戦闘で即座に崩壊。あるマリの閣僚が言うには、マリ軍は「社会のくず。問題児に落ちこぼれに怠け者に犯罪者の集団」だ。
だが何よりの過ちは、首謀者ベルモフタールを殺害したとする確たる証拠がないことだろう。ベルモフタールのDNA証拠は発見されていない、と過激派は米軍の主張に反論する。
襲撃事件は、マリが最悪の事態に陥っていることを示した。安定化に貢献したと喧伝されていた仏軍介入が、何ら意味をなさなかった可能性すらあるのだ。
オランドはマリに「必要な支援」を行うと表明しているが、フランスはただでさえ対ISIS戦の強化を迫られる身だ。その上、今や本当の意味で決着のついたことなど一度もなかった相手との戦いに再び足を踏み入れるという、受け入れ難い事実にも直面している。
[2015.12. 8号掲載]
ジョシュア・ハマー
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