歴史の中の多様な「性」(5)
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月4日 16時42分
私は、一人のトランスジェンダーとして、「私はなぜこうなのだろう?」と自問することから始めて、自分と同じような人たちの歩みを遡る形で、トランスジェンダーの歴史研究に打ち込んできた。その結果、日本で初めてトランスジェンダーとして大学の教壇に立つことができた(二〇〇〇年、中央大学文学部)。口幅ったいが、自分なりの努力を重ねて日本のトランスジェンダー・スタディーズの基礎を作り、トランスジェンダーの社会進出の学術的な方面での道を切り開いてきた自負はある。しかし、そこまでが限界で、保守的な日本の学界、硬直した大学の人事システムの壁はついに打ち破れず、一介の「野良講師」で終わる。
後に続くトランスジェンダーたちには、もっと先に行ってほしい。同性愛者やトランスジェンダーであるからといって、社会的に「門前払い」するのではなく、その人の能力・適性に合った社会的ポジションが与えられるべきだ。同性愛者・トランスジェンダーの人権を尊重し、その能力を活用した方が、社会の総体として利益は大きいと思う。人口減少が進む二一世紀の日本社会には、同性愛者やトランスジェンダーの能力を埋もれさせておく余裕はないはずだ。
多様性とは豊かさである。いろいろな「性」の人、ジェンダー・セクシュアリティを含めたいろいろな属性の人がいてこそ、社会は活性化され発展する。なによりその方が、いろいろ面白いではないか。
二一世紀の日本は、多数派のヘテロセクシュアル(異性愛者)&シスジェンダー(性別を動かさない人)と、少数派のホモセクシュアル(同性愛者)やトランスジェンダー(性別を動かす人)が、お互いの性の在り様を尊重しながら、共生できる社会になってほしい。そのためには何をなすべきか、社会全体がもっと真剣に考える時期に来ている。今こそ変革の時なのだ。
[執筆者]
三橋順子(性社会・文化史研究者)
1955年生まれ。専門はジェンダー/セクシュアリティの歴史。中央大学文学部講師、お茶の水女子大学講師などを歴任。現在、明治大学、都留文科大学、東京経済大学、関東学院大学、群馬大学医学部、早稲田大学理工学院などの非常勤講師を務める。著書に『女装と日本人』(講談社)、編著に『性欲の研究 東京のエロ地理編』(平凡社)など。
※当記事は「アステイオン83」からの転載記事です。
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『アステイオン83』
特集「マルティプル・ジャパン――多様化する『日本』」
公益財団法人サントリー文化財団
アステイオン編集委員会 編
CCCメディアハウス
三橋順子(性社会・文化史研究者)※アステイオン83より転載
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