郊外の多文化主義(4)
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月10日 15時27分
「別に死んでもいいし殺してもいい! 金作って俺らの弟や妹たちとか俺らの子供が生きてていいって場所を作るためなら......わかったかニッポンジン!」(肥谷圭介・鈴木大介『ギャングース』講談社、第9巻)
他方、張本の金庫を強奪したタタキ屋(犯罪者の収益を狙う強盗団)の日本人少年たちは、劣悪な生育環境とその後の境遇(養護施設出身、少年院あがり)がために「ピカチュー」も「嵐」も知らないことから、合コンの席上、同世代の女子たちから「施設とか怖いし......あんたたちマジで日本人?」と言い放たれる(『ギャングース』第8巻)。――闇金の金庫の張り番も日系ブラジル人の少年ギャング達も、施設・少年院出身の強盗団の少年達も、みな同じなのだ。そして彼らが欲するのは弟妹や子どもが安んじて暮らすことの出来るパトリ(patrie)なのだ。
最後に、以上のような問題状況のすべてを考える上で最も重要な視座について検討し、本稿を締めくくることとしたい。それは「福祉国家」と「ナショナリズム」の関係である。これまで述べてきたような人びとが安んじて暮らすことの出来るパトリは、福祉国家によって制度的に提供されるものであるが、福祉国家体制は、そもそもドメスティックな再分配を前提とするものであり、そこではコスモポリタンな再分配は排除されていることが明確に意識されなければならない。
福祉国家による給付対象の範囲画定はナショナリティの問題であり、それは「同胞とは誰か」という問いに他ならないのである。この点については、ドメスティックな福祉国家体制がナショナリズムと不即不離であることを論じたデイヴィッド・ミラー(David Miller)の議論が参考になるだろう。ミラーはリベラル・ナショナリズムの代表的な論者であるが、次のような形で福祉国家の基礎としてのナショナリティ/ナショナリズムの必要性を論じている。
「とくに、市場での取引を通じて自活できない者に対する再分配を含む枠組みを各個人が支持する条件について考えるとき、信頼は特別な重要性を帯びるようになる。この意味での福祉国家を目指し、同時に民主的な正統性も保持しようとする国家は、構成員がそうした正義の義務をお互いに承認しあっている共同体に基礎を置いていなければならない。......ナショナルな共同体は、実際にこの種の共同体である」(富沢克・長谷川一年・施光恒・竹島博之訳『ナショナリティについて』風行社、2007年、訳163頁)
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