軽減税率をめぐる、日本とアメリカの常識の違い - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2015年12月15日 18時0分
どうも難しいようです。
まず一般論として、「外食や加工食品は贅沢で、自分で調理するための食材は低付加価値だ」ということが日本の場合は言い難いのです。理由は2つあります。
日本の場合は単身者家庭が多いことや、廉価な外食があるために「外食や加工食品には付加価値があって、食材より贅沢」ということが当てはまらないのです。
アメリカの場合は、常識的に考えて「一番安くてお腹を一杯にできる」食事といえば、袋に入った大量生産品のパンを買って、それにジャムやピーナツバターを付けて食べるということになるでしょう。その場合の食材は多くの州で非課税扱いになります。
一方で、日本の場合は「コンビニおにぎり」が一番安いと思います。廉価なお米を買ってシンプルな炊飯器で炊いたご飯に、一番安い梅干しなり佃煮を入れて、一番安いノリを巻いたとしても、コンビニより高くつくのではないでしょうか。
食事のイメージとしても、自分で炊いた「炊きたてご飯のおにぎり」は、明らかにコンビニで買うよりも贅沢です。時間的余裕がなければできないし、家族がいるなど一定のロットを確保しないと一食あたりのコストが下がらないなど、社会的な条件を考えても「自炊は贅沢」であり、「コンビニの加工食品は贅沢品ではない」ということが言える社会です。
その一方で、高級肉や希少な食材など「平均的な外食よりもずっと贅沢な生鮮素材が消費者向けに売られている」という状況もあります。これもアメリカでは一般的には見られない現象です。
アメリカの場合、スーパーで売られている牛肉は特別に高級な店以外では、一般的にどんなに高くても「1ポンド20ドル前後(100グラム当たり530円見当)」で、もっと高級な肉は通常は外食産業に回ります。ですから、「平均的なステーキハウスで食べるより、いい肉を買ってきて自分の家で焼いたほうが贅沢」という逆転現象は稀です。
加えて日本の場合は「100グラム3000円の牛肉」でホームパーティをするような富裕層でも、一杯380円の牛丼で一食を済ますような層でも、基本的に納税意識は同じです。つまり誰もが平等に課税を忌避しようとしますから、軽減税率は「逆進性を悪化させる」というような議論に真剣に耳を傾ける人は少ないようです。
そう考えると、今回の「軽減税率議論」というのは非常に合意形成が難しいように思います。日本の現状を考えると、「一発で制度を固定」するのではなく、導入後に不具合や不公平が顕著となった場合には修正するという、フレキシブルな姿勢でも良いのではないかと思います。
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