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共和党予備選で盛り上がる「政権交代外交」否定論 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 / 2015年12月22日 16時30分

 共和党の大統領候補予備選では、依然として「トランプ旋風」が続いています。今月初めのカリフォルニア州での銃乱射テロ事件、それを受けた形でトランプ候補が言い放った「イスラム教徒入国禁止」発言などを経ても、トランプ候補の勢いは止まりません。現在では、共和党支持者における支持率が35~40%という水準で推移しており、さらに支持率はジリジリ上昇しています。

 トランプと「お互いに批判を控えて」連携を匂わせているテッド・クルーズ候補も支持を伸ばしており、来年の2月1日に党員集会が予定されているアイオワ州では、トランプを上回る支持を獲得しています。

 とにかく、この2人の候補が党内を「引っかき回す」一方で、共和党の伝統的な中道派は3位のマルコ・ルビオ候補に希望を託すしかない、そんな中で年末を迎えつつあります。

 さて、このトランプとクルーズという「右派ポピュリスト」ですが、「イスラム教徒入国禁止」とか「ISILへの絨毯爆撃をせよ」といった「暴言」ばかりでなく、大胆な中にも「考えさせられる発言」を混ぜていることを指摘しないわけにはいきません。

 例えば、軍事外交に関してですが、トランプに続いてクルーズも加わる形で、過去20年間のアメリカの「レジーム・チェンジ(政権交代)政策」をハッキリ否定し始めているということが指摘できます。

 要するに中東などの情勢に軍事的に介入する中で、「反米的な政権を交代させる」ように画策したケースのほとんどは失敗に終わっている、だから、そのような「レジーム・チェンジ」は否定すべきだというのです。

 具体的には「サダム・フセインを温存すべきだった」という論と、「ムバラク、カダフィ、アサドはアメリカの国益にかなっていた」という主張です。

 重要なのは、この2つの話が組み合わさっているところです。前者だけなら「イラク戦争反対論」ということで、どちらかと言えば民主党などの反戦論に近いわけです。ところが後者の話、つまり「中東の独裁政権崩壊」に関して言えば、要するに『アラブの春』を承認した「オバマ外交」に対する強烈なパンチになるわけです。

 ですから、この2つがセットになることで、左派ではなく右派的な主張になるのです。さらに言えば、カダフィ打倒に手を貸し、今もアサド打倒を考えている共和党の「軍事タカ派」、つまりジョン・マケインやリンゼー・グラハムへの「アンチ」にもなります。

 さらに言えば、そうした「独裁政権許容論」というのは、ヒラリー・クリントンの政治姿勢に真っ向から対立するものです。ヒラリーの行動理念というのは、いわば「リベラル・ホーク」つまりリベラルなタカ派とでも言うべきもので、人道危機や民主化要求運動には積極的に介入して「自由と民主主義、人権」という普遍的な価値を世界に普及させようという思想です。ですから、この「レジーム・チェンジの否定」というのは、そのいわば「ヒラリー主義」の全否定になります。

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