銃乱射犯に負け犬の若い男が多い理由
ニューズウィーク日本版 / 2016年1月14日 19時30分
本能は、男性の暴力性をあおって、男性ホルモンであるテストステロンのレベルを上げ、なすべきことに備えて態勢を整える。
人類にもっとも近い霊長類の仲間であるチンパンジーの研究から、群れの中で地位が高いオスのチンパンジーは、誰よりも高い攻撃性と、誰よりも高いテストステロン量を示していることがわかっている。その上、大人のオスのチンパンジーは全員、排卵中のメスのチンパンジーを前にすると、テストステロンの量が最大となって攻撃性が増す。
筆者も含め人間のテストステロンと攻撃性の関係を専門とする研究者は、テストステロンで増幅された暴力が発生する確率が高いのは、男性がほかの男性と競争している時、あるいは、男性の社会的地位が何らかの形で挑戦を受けている時であると考えている。
増加したテストステロンは、そうした挑戦に立ち向かうために必要な競争的行動を促し、それが暴力に発展する場合もある。
多くの研究から、男性のテストステロン量は、テニスやレスリング、さらにはチェスといった競技の勝ち負けに応じて、増えたり減ったりすることが明らかになった。
観戦するファンにも同様の変化が起きる。大事な試合の後に(勝ち負けを問わず)激しい破壊行動が起きるのもそのためだ。
銃がもたらす影響
では、こうした「暴力の公式」に、銃はどんな影響を与えるのだろうか。
筆者らは2006年、銃に対する男性の反応に関して臨床実験を実施、科学的心理学会の学術誌『サイコロジカル・サイエンス』に共同論文を発表した。ボードゲームを与えた男性よりも銃を与えた男性のほうが、テストステロンが大幅に増え、より攻撃的な行動が見られることを実証した。
2014年にカリフォルニア大学サンタバーバラ校で乱射事件を起こした大学生のエリオット・ロジャーは、事件前にYouTubeに背筋の凍るような予告動画を投稿したが、初めて銃を購入したことでテストステロンが増加していることは明らかに見えた。
動画のなかでロジャーはこう言っている。「銃を買って部屋に持ち帰ったら、力がみなぎるのを感じた。支配者が誰なのかわかるよな、女どもめ」。
銃乱射事件の犯人は、優位性の低い負け犬か
暴力をふるう可能性がもっとも高いのは、他人から尊敬を得えられない若い男性だ。社会から軽んじられた除け者で、ほしいものや、手に入れて当然だと思えるものを獲得できていないと感じている場合も多い。
英国の臨床心理学者ポール・ギルバートは、「Social Attention-Holding Theory(社会的注目保持力)」という概念を考案した。彼によれば、私たちは、他人の注目を集めるために互いに競い合うのだという。注目が得られれば高い地位を築くことができるからだ。他人から注目を浴びて地位が上昇すると、ありとあらゆる肯定的な感情が生まれる。一方、他の人から無視される続けると、悪意に満ちた感情、とりわけ妬みと怒りが生まれる。
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