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恐怖の「それ」がえぐり出す人生の真実

ニューズウィーク日本版 / 2016年1月15日 13時35分

 80年代に、こんな都市伝説が存在した。ある男性(または女性)がバーやクラブで出会った相手とセックスをする。翌朝、目を覚ますと相手の姿はなく、鏡に口紅(またはシェービングクリームや血)で書かれたメッセージが。「エイズの世界へようこそ」──。

 嘘くさい伝説だが、エイズ流行のさなかに大人になった世代の恐怖心を巧みに突いていた。それと同様の構造を持つのが、若手監督デビッド・ロバート・ミッチェルの長編第2作『イット・フォローズ』だ。

 ミッチェルの故郷デトロイトで、わずか28日間で撮影された本作は、19歳の少女ジェイ(マイカ・モンロー)が主人公のホラー映画。デート相手とセックスした彼女は、恐ろしい何かに感染したことを知る。性交渉でうつる「それ」は感染者をゆっくり、ひたすら追い掛け、捕まればむごたらしく殺される。

 逃れるすべは、別の誰かにうつすこと。だがうつした相手が殺されたら、「それ」は自分に戻ってくる。「ひたひたと迫る存在というアイデアは、子供時代に見た悪夢が元ネタだ」と、ミッチェルは話す。「恐ろしかったのは、それが絶対に追い掛けるのをやめない点だ。ひたすら僕を目指してやって来た」

 ターミネーターのように、決して諦めない追跡者。それこそ本作の恐怖の核だ。

 ミッチェルは賢明にも、昨今のホラー映画にあふれる扇情的拷問シーンやスプラッター描写を避け、ホラー・SFジャンルの巨匠ジョン・カーペンターらを思わせる夢うつつの世界を作り出した。映画の舞台としては珍しいデトロイト郊外の風景も、奇妙なムードをもたらす。

セックスと死をめぐって

 ある登場人物は電子書籍リーダーでドストエフスキーの小説『白痴』を読むが、手にしている端末はコンパクト型の避妊用ピルケースのようにも見える。

「60年代の化粧用コンパクトを電子端末として登場させた」と、ミッチェルは言う。「60年代のデザインなのに、現代的な機能を持つもの。現実の世界が舞台ではないことを示す、ちょっとした手掛かりだ」

 こうした描写のおかげで、多くのホラー映画とは一味違う作品が生まれた。いくつかの場面だけを取り出せば、大人になる道のりをファンタジーとして描いたかのようだし、ある意味ではそれこそがこの映画の本質だ。

 面白いことに、本作の「それ」は、物理的法則に従うものとして設定されている。だから窓を割って侵入できても、壁を通り抜けることはできない。同時にその存在は感染者にしか見えず、しかも家族や教師など、さまざまな人物の姿で現れる。ゾンビなどがヒントになっているとはいえ、近年で最も独創的なクリーチャーの1つだ。

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