抗酸化物質は癌に逆効果?
ニューズウィーク日本版 / 2016年1月18日 16時0分
ブルーベリーや緑茶には抗酸化作用(つまり体がさびつくのを防ぐ力)があるという。だから健康維持や老化防止にいいとされ、癌の予防になるという説もあるくらいだ。
ところが15年10月、イギリスの科学誌ネイチャーに、そんな通念を揺るがす論文が載った。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターの研究チームがマウスで実験したところ、抗酸化物質が癌細胞の転移と成長を促している疑いが生じたという。
同センターのショーン・モリソンやメアリー・マクダーモット・クックによれば、「抗酸化物質は体にいいという考え方は根強く、癌患者に抗酸化物質を投与する臨床試験も行われてきた」という。「しかし抗酸化物質を投与した患者がそうでない患者よりも早く死亡する事例が相次ぎ、そうした治験は中止された。なぜか。今回のデータが示唆するところはこうだ──正常な細胞よりも癌細胞のほうが、抗酸化物質のおかげで元気になっているのだ」
今回の実験では、人間の悪性黒色腫(メラノーマ)細胞をマウスに移植し、転移の様子を観察した。一部のマウスにはエイズ(後天性免疫不全症候群)患者の治療や栄養サプリメントに使われる抗酸化物質N-アセチルシステイン(NAC)を投与したという。結果、NACを投与したマウスの癌細胞は対照群のマウスに比べて転移のスピードが速く、腫瘍の成長も速かったという。
抗酸化物質を投与された癌患者の一部で、実際に腫瘍が大きくなったとの報告は過去にもある。しかし今回の実験結果は、マウスで見られたような転移の加速が人間でも起こり得ることを示唆している。
論文の執筆者らは、癌治療にはむしろ酸化促進剤が有効ではないかとも指摘している。「メラノーマ細胞は転移の過程で非常に強い酸化ストレスを受け、ほとんどが死んでしまうことが分かった」とモリソンは言う。しかし「抗酸化物質を投与したマウスでは、転移過程の癌細胞の多くが生き残り、転移癌による病気が重くなった」。
もともと爆発的な増殖力を持つ癌細胞を、さらに元気にするのは自殺行為。抗酸化物質がどんな場合でも体にいいとは限らないようだ。
[2016.1.12号掲載]
ポーラ・メヒア
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