脱「敗戦国」へ、ドイツの選択
ニューズウィーク日本版 / 2016年1月21日 16時22分
ドイツ連邦議会が先月に自国軍の国外派兵を可決した審議で特筆すべきは、拍子抜けするほどあっさり承認されたことだ。議会はテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)掃討作戦に協力するため、シリアなどへ1200人規模の派兵を可能にする政府案を圧倒的多数で可決した。ドイツ軍はアメリカ主導の有志連合に合流して後方支援や偵察に当たるが、戦闘には加わらない。
ドイツ軍はNATO軍の一員としてヨーロッパの防衛義務を負うが、NATO域外への派兵には議会の事前承認が必要だ。今回、政府案がすんなり承認されたことは注目に値する。
ほんの数年前なら国民の大部分が受け入れなかったはずだが、今回は反対派も諦め顔だった。野党・左派党なども加わった反戦デモが行われたが、採決にはほとんど影響を与えられないだろうと、同党の外交政策責任者であるシュテファン・リービッヒ議員は採決前夜に語っていた。国外の軍事作戦への参加に「ドイツ人はノーと言えなくなっているのではないか」。
戦後数十年間、ドイツ人は軍事力の増強と行使に懐疑的だった。ドイツは20世紀に2度戦争を仕掛けて敗れており、軍は二度と国外の出来事に首を突っ込むべきでないというのが多くの国民の気持ちだ。これまで域外派兵をめぐる議会での議論は紛糾しがちだった。91年の湾岸戦争の際には、ドイツは結局、多国籍軍に人的参加しなかった。
だがドイツがヨーロッパ最大の経済国となった今、この国の指導者らは同盟国からの派兵要請に応じるようになっている。
シリア派兵をめぐる採決からは域外派兵に対する世論の反発が薄れていることがうかがえる。ベルリンでは東西ドイツ統一の象徴であるブランデンブルグ門付近での反戦デモに約2000人が参加したが、リービッヒの予想どおり議員の考えを変えさせるほどではなかった。
タブーだった域外派兵
第二次大戦後、戦勝国はドイツ軍が二度とヨーロッパと世界を脅かすことのないよう措置を講じた。再教育によってドイツ人の心に軍に対する猜疑心を植え付けた。軍の活動は憲法に当たる基本法によって防衛のみに限定された。「ドイツ国民は平和主義者になるべく教育されている」と、ベルリンの連邦安全保障政策アカデミー(BAKS)のカールハインツ・カンプは言う。
ドイツが戦後、域外に派兵したのは92年にカンボジアの国連平和維持部隊に衛生兵を派遣したのが最初。湾岸戦争で「小切手外交」と批判されたことを受け、議会承認による域外派兵を可能にしたのだ。しかしその後も同盟国への資金援助が主流だった。
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