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ドナルド・トランプはヒトラーと同じデマゴーグ【前編】

ニューズウィーク日本版 / 2016年1月26日 18時54分

 ドナルド・トランプは昨年12月、イスラム教徒を入国禁止にするべきだと主張して、世界中を憤慨させた。イギリスでは、「トランプのイギリスへの入国禁止」を政府に求める請願に約50万人が署名した。アメリカでも、民主党員や共和党員、メディア、宗教団体が、そろってトランプを非難した。

 しかし、最近の世論調査では、有権者の37%が、支持政党に関係なく、イスラム教徒の入国を「一時的に禁止」することに賛成した。

 トランプが傲慢で怒りっぽい点には、大半の有権者が呆れている。そんなトランプが、共和党支持者のかなりの部分を押さえ、支持を固めているように見えるのはどういうことなのだろう。

 トランプは一部から、デマゴーグ(扇動政治家)でありファシストだといわれている。政治評論家がトランプを歴史上の人物にたとえる場合も、出てくるのは「人種隔離を永遠に!」と叫んだ元アラバマ州知事ジョージ・ウォレスや、共産主義者を弾圧する赤狩り(レッドパージ)で知られるジョセフ・マッカーシー上院議員(当時)、さらにはヒトラーなどの偏向した人物ばかり。そんなトランプが、根強く支持され続けているのはなぜだろう。

 筆者は、「アメリカ政治における修辞技法」の研究者として、トランプの修辞技法を分析することで彼の人気の一端を説明できると考えている。

デマゴーグの修辞技法

 デマゴーグはギリシャ語であり、「民衆の指導者」(demos=民衆、aggos=導く者)を意味する。しかし現在では、民衆の偏見を利用して、間違った主張や約束をし、理性ではなく感情に訴える議論を駆使する指導者を指す表現になっている。

 トランプは、国家の危機を訴えて有権者の不安を煽り、自らを国家を救うヒーローとして位置づける。敵を打ち破り、国境を守り、「米国を再び偉大な国にする」ことができる唯一の存在というわけだ。

 トランプには、そうした目標を「どのように」成し遂げるかという具体性はない。だがそれは問題にならない。巧みで自信に満ちた演説のほうがはるかに説得力があるからだ。彼は聴衆に「私を信じよ」と言う。自分は「極めて優秀だ」と約束し、予言の力があるかのように振る舞う(例:「私は9.11の攻撃を予見していた」)。

 トランプは自画自賛が激しく傲慢な人物に見える。研究によると、傲慢さはしばしば、指導者を目指す者にとって最も好ましくない資質なのだが、トランプはその傲慢さがあまりに徹底しているため自信過剰ではなく本物であるかのように見える。トランプの偉大さこそがアメリカの偉大さなのだ。

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