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あの男が広めた流行語「PC」って何のこと?

ニューズウィーク日本版 / 2016年1月28日 17時15分

 理由の1つは、トランプが大統領選のライバルたち以前に、アメリカの「政治的公正さ」への戦いを挑んでいること。そして、多くの国民がその戦いに同調している。

 ポリティカル・コレクトネスという概念は、もとは60年代の公民権運動や女性解放運動、ゲイ解放運動など差別是正運動の流れの中で芽吹き、80年代に大学を中心に実践されるようになった。多民族・多文化社会のアメリカにおいて、マイノリティーや弱者に寛容になろう、という呼びかけだったともいえる。

 こうして「インディアン」を「ネイティブアメリカン」、「黒人」を「アフリカ系アメリカ人」、「ビジネスマン」を「ビジネスパーソン」に変えるなど用語上の差別が撤廃されていったわけだが、一方で一定層のアメリカ人の心の中には「言いたいことが言えない」フラストレーションがふつふつと募っていたようだ。

 今や多民族の街ニューヨークでは、宗教上の観点から「メリークリスマス」とは言わずに「ハッピーホリデー」と言うのが主流だし、極端な例としては「ペット」は差別用語だから「コンパニオンアニマル(連れ合いの動物)」とすべきという主張さえある。国民にしてみれば、「これを言ったら差別になるんじゃ」と「PC」の影に怯えていたところ、本音を惜しみなく代弁してくれるトランプが現れたというわけだ。

 例えばトランプは、昨年8月に共和党候補者の討論会でFOXニュースのメギン・ケリーに女性蔑視発言を批判された際にこうやり返し、聴衆から喝采を浴びた――「アメリカが抱える大きな問題は、ポリティカル・コレクトネスだと思う」。これを受けて、昨年10月にフェアレイ・ディキンソン大学が世論調査を実施したところ、「アメリカが抱える大きな問題は、ポリティカル・コレクトネスだ」という考えを「支持する」と答えた国民はなんと68%。「トランプの『アメリカが抱える大きな問題は、ポリティカル・コレクトネスだ』という発言を支持するか」と聞いても、53%が支持に回った。

 どうやら今のアメリカでは「政治的に公正でないべき」のほうがメインストリームで、トランプは口封じされた国民のうっぷんを晴らしてくれる「心の拡声器」なのだろう。トランプはさらに、「自分はただ『真実』を言葉にしているだけなのに、偽善的なメディアがPCを振りかざして断罪してくる!」と言わんばかりのメディア批判も繰り広げている。そんな彼に、無言の大衆が支持率上で声援を送るという構図が出来上がっているのだ。

 トランプは、FOXニュースが前回の討論会で自分を不当に扱ったとして、1月28日に開かれるFOX主催の討論会をボイコットすると発表。27日にはこう発言してメディアに叩かれた。「(討論会を司会する)メギン・ケリーを『バカ女』と呼んだりはしない。それは政治的に公正じゃないだろうからな。代わりに、軽薄なリポーターと呼んでやる!」

 ポリティカル・コレクトネス――この概念に言及するだけで、何でも言いやすくなるということか。確かに、トランプ流の使い方をして本音をオブラートに包むにはもってこいの言葉かもしれない。PCじゃないから、「トランプ、あなたって何て『バカ男』なの!」とは言いませんけど。


小暮聡子(ニューヨーク支局)


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