NASA全面協力の火星サバイバル映画『オデッセイ』
ニューズウィーク日本版 / 2016年2月5日 15時0分
NASAで映画製作への協力窓口となっているバート・ウルリッヒによれば、キューブリックをはじめ制作サイドは21世紀の宇宙探査がどんなものになっているかを描くために、未来学者や科学者らと一緒に徹底的なリサーチを行ったという。その結果、彼らはほぼ正確に予測することができた。
科学と芸術が融合する
『2001年宇宙の旅』で驚くほど正確に未来を描けたことが、『ゼロ・グラビティ』や『トゥモローランド』など近年のハリウッド映画へのNASAの協力を後押ししているのかもしれない。なかでも『オデッセイ』でのパートナーシップは別格だった。NASAは多くの人材を割いて、脚本段階から協力した。
NASAは今回のチャンスを最大限に利用したいようだ。プロデューサーのマーク・ハッファムによれば、彼と監督のスコットが最初の製作会議のときにNASAに電話をかけると、「先方は既に原作のことを知っていて、アイデアを自由に交換することに大変乗り気だった」らしい。
最初はウルリッヒだけとのやりとりだったが、協力関係はすぐに拡大した。脚本の監修をしてくれたNASAのスタッフの中には、オバマ政権の宇宙政策や2020年の火星探査ミッションなどに携わっている科学者たちも名を連ねていた。
ワトニー(左端)は死んだと勘違いしたクルーは地球に帰還 ©2015 TWENTIETH CENTURY FOX FILM
つまり、NASAは『オデッセイ』の製作すべてに関与した。脚本のドリュー・ゴダードはNASAのためにロボットを開発しているカリフォルニア工科大学の研究所を訪れたし、衣装デザイナーは宇宙服についてNASAの助けを借りた。
美術監督のアーサー・マックスはアポロ計画で使われた管制室や、現在の国際宇宙ステーション(ISS)の管理センターなどヒューストンにあるNASAの施設を数多く見学させてもらった。NASAの協力がなければ『オデッセイ』のセットは作れなかったとマックスは言う。
【参考記事】NASA火星の大発見にも「陰謀」を疑うアメリカ人
もちろん、映画がNASAの広報に一役買っていることは間違いない。デイモンはNASAが開発中の火星探査機「インサイト」のシリコンチップに自分の名前を刻んだ。
14年12月に打ち上げられた新型宇宙船「オリオン」の無人試験機には、この映画の脚本の表紙も載せられた。オリオンは人類を火星に連れて行く最初の宇宙船になるとうたわれている。搭載された脚本の表紙にはスコットが描いたワトニーのスケッチと、「科学の力で何とかこの惑星で生き延びてやる」というワトニーのせりふが添えられた。
『オデッセイ』には、過去にスピリットやオポチュニティーといった無人探査車が火星で撮影した実際の映像も挿入されている。いわばロボットが映画監督の役を担い、科学と芸術が融合した映像だ。
「宇宙探査の分野では以前から、科学と芸術の興味深いコラボレーションが行われてきた」と、フェレンは言う。「人類が宇宙に行けるようになる前は、夜空に見える小さな点は何なのか想像するしかなかった。その好奇心からストーリーが生まれる。人類の好奇心が芸術と科学を結ぶのだ」
『オデッセイ』のセットで撮影中のデイモンは言った。「自分より賢いキャラクターを演じるのは楽しい。彼はすぐに正しい答えを見つけるんだ。俺なら火星で20分ももたないだろうって、何回思ったことか」
NASAは映画の公開終了後も人々の火星探査の夢が長くもってほしいと願っている。
[2016.2. 9号掲載]
ゴゴ・リッズ
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