日本の国技・相撲が狭量な国威発揚と無縁な理由
ニューズウィーク日本版 / 2016年2月9日 17時50分
海上に船を浮かべた日本人は時に海賊行為を働くこともあったし、モンゴルの遊牧民も「征服者」を演じることが多々あった。古代から国際化に慣れ切った日本人とモンゴル人には狭量なナショナリズムは希薄で、スポーツを一国のみの国威発揚に利用しようとする精神もない。
かつて朝青龍が横綱として土俵をにぎわせていた頃は、草原の国モンゴルの首都ウランバートルでは夕刻になると車も止まり、官公庁も機能を停止して相撲を観戦していた。日本語のしこ名は草原にまで伝わっていた。
今回の大相撲初場所で大関琴奨菊は横綱白鵬と日馬富士、それに鶴竜らモンゴル人たちを次から次へと連破し、「21世紀の蒙古襲来を退治」した。やがて遊牧民の「騎士」たちも捲土重来するだろう、とモンゴルの新聞は書いている。
【参考記事】ラグビー嫌いのイギリス人さえ目覚めさせた日本代表
スポーツのルーツを探求するのはロマンを感じるが、「純血」にこだわるのはあまり意味がない。文化は高次元のところから低次元の地へ広がるものではなく、同時多発的に発展するのが一般的だ。日本列島はまさに文明の吹きだまりのように、ユーラシアのあらゆる文化が導入されて定着したところだ。いわば、太古の昔からグローバリゼーションを実践してきた民族だ。
政治化し、国威発揚と利益を優先してきた世界のスポーツ界は、海の民・日本と草原の民モンゴルの国際性に見習う必要があるかもしれない。
[2016.2. 9号掲載]
楊海英(本誌コラムニスト)
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