【写真特集】当事者が切り取るイランの素顔
ニューズウィーク日本版 / 2016年2月15日 18時30分
<自由を手に>
首都テヘラン南部の女子校で英語を教えているソメヤ。「私が育ったイスファハン近郊の小さな町はすべてが宗教に結び付き、住民は皆知り合いだった。親戚の男性と結婚してテヘランに来たが、結婚生活は数年で破綻した。でも彼に離婚を認めてもらうのに7年かかった。今は自分の足で生きている。綱渡りのダンサーのような生活で一歩間違えば墜落するけれど、以前は許されなかった個人の人格と自由を持てることには感謝している。私は忍耐強いから」
イラン人家庭にとって家族のアルバムは宝物だ。かつてはどの家のアルバムにも、精いっぱいのおしゃれをして子供の誕生日を祝う希望に満ちた家族の集合写真が並んでいた。
だがイスラム革命やイラン・イラク戦争を経て、そんな中流家庭の幸せな日常はいつしか途絶えてしまった。祖国を捨てた者もいれば、戦争に家族を奪われた家庭もある。家族のアルバムに空白のページが増えるなか、イラン社会は怒りに満ちたデモ隊やベールをまとった女性といった極端なステレオタイプばかりで語られるようになった。
しかし、部外者の目を介したそれらのイメージはイランの現実を正しく映していないと、81年生まれのイラン人写真家ヌーシャ・タヴァコリアンは訴える。現代イランの素顔、特に自分と同じ若い世代のありのままの姿を伝えたいと考えた彼女は、その世代を象徴する9人の日常を丹念に追い、イラン社会の光景と共に写真集『イラン人のアルバムの空白ページ』にまとめた。
イランでは人口の70%以上が35歳以下だ。制約だらけの社会の中で必死にもがく彼らの姿は、複雑で矛盾に満ちたイランの今を雄弁に物語っている。
通気口の修理をする男性。テヘラン芸術大学のキャンパス内の壁にはさまざまな絵が描かれている
<再会>14年、娘の8歳の誕生祝いに駆け付けたときのアリ。娘に会えたのは数カ月ぶりだった。「私は16歳になった直後から7年10カ月と3週間と1日、戦地に行っていた。友人や家族、同胞が次々に命を落としていった。戦死した仲間67人分の名前のリストを携えて復員した。正直に言えば、私も死んだようなものだ。視力を失ったんだ。娘は今9歳になっており、母親と暮らしている。そのほうがいい」
<別離>夫のサミをイランに残して単身で外国に渡ったナザニン。夫はその理由をこう語る。「妻は3カ月前、経済的な不安の少ない安定した人生を求めてイランを離れた。私も一緒に行けるよう画策してくれたが、私にはそれが正しい選択だと思えなかった。私たちのルーツはここにある。変化が怖いわけではないが、妻と同じように外国生活を楽しむことはできない。彼女が去って孤独を感じている。いずれよかったと思う日が来ると彼女は言うのだが」
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