「暴言トランプ」の正体は、タカ派に見せかけた孤立主義 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年2月16日 17時30分
この「殺害宣言」だけを取り出せばそうなります。ですが前後の発言を考慮すると、実はまったく違うイメージも浮かんでくるのです。
例えば「北の指導者を亡き者に」という点ですが、トランプは「アメリカとして実行するつもりはない」ようです。というのは「(自分の交渉術を使って)中国にやらせるように仕向ける」というのです。つまり、言葉は過激なのですが、要するに北朝鮮の問題はアメリカが直接手を下すのではなく、中国との協調で解決したいと言っているのです。
もちろん、「亡き者に」というのは乱暴だとしか言いようがなく、大統領を目指す人間としてまったく不適切です。ですが、そのような過激な「キャッチフレーズ」で注目させておいて、実際には「他力本願」というか「非干渉主義」、あるいは「孤立主義」とも言える姿勢を取っている、そこにトランプの真骨頂があるのです。
ブッシュ元大統領への攻撃も同様で、まるで「9.11テロに責任がある」ように攻撃したかと思えば、その勢いで「イラク戦争というのは本当にバカげている」と批判していました。「大量破壊兵器なんて嘘だった」「フセイン政権を除いたら地域全体がカオスになるのは分かっていたはずだ」と、徹底的に断罪したのです。
【参考記事】現実味を帯びてきた、大統領選「ヒラリー対トランプ」の最悪シナリオ
つまり、トランプの「暴言」というのは、その主張を「まともに分析」すれば、決してタカ派でもなければ、先制攻撃主義とか、敵政権の「すげ替え」などを志向するものでもないのです。強いて言えば、不介入主義とか、孤立主義と言えるものです。
サウスカロライナの会場では、この「イラク戦争批判」の部分で保守派から大ブーイングが起こりました。もちろん、ブッシュ元大統領を罵倒して、イラク戦争を全面否定するのは「草の根の軍事タカ派」には許せないに違いありません。ですが、会場では同時に支持者からの拍手も起きていました。ということは、共和党の支持者の中でも割れているのです。
トランプの暴言の根本にあるのが「孤立主義」だというのは、例えば「イスラム教徒を入国させない」とか「メキシコとの間に巨大な壁を作って移民を阻止する」という一連の暴言を重ねてみれば、ますます鮮明に見えてきます。
この選挙でトランプは、「偉大なるアメリカを取り戻す」というスローガンを掲げています。それだけを見ると、オバマの時代に軍縮と国際協調主義によって「世界の警察官から降りつつ」あったアメリカを、再び軍事大国にして世界の秩序を主導してくれそう――。支持者の中にはそんな期待もあるかもしれません。
しかし、彼の主張によく耳を傾ければわかりますが、そのような期待はまったく間違いと言っていいと思います。
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