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メディア管理を強める中国――筆者にも警告メールが

ニューズウィーク日本版 / 2016年2月25日 17時0分

 誰も官製メディアなど見やしない。

 中華人民共和国を建国するにあたり、中国共産党(毛沢東)が国民党(蒋介石)から政権を奪うことができたのは「銃とペンの力」だった。

 毛沢東の文才は、たしかに宣伝文書を通した呼び掛けによって民心をつかんだ。その紙代や印刷機および印刷代を支えたのは日本外務省の機密費である。拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に詳述したように、毛沢東は中共スパイ潘漢年に日本外務省・岩井公館の岩井英一と接触させて大金を入手し、それにより「ペンと銃」による政権奪還に成功した。

 しかし今はどうか。

「銃」はしっかり充実させているが、「銃」では人心は買えない。
習近平は「第二の毛沢東」として毛沢東の威信を借りようとしているが、頼りとなる「党のペン」に、網民(ネット市民、ネットユーザー)は見向きもしないのである。特に微博も微信も、携帯で互いに通信できる。国家の検閲は徹底できない。

 人民網には「強国論壇」があり、「五毛党」(安い報酬で政府のために党と政府を讃えるコメントを書く人たち)により占められてはいるが、ときどき、「あれっ?」と思うようなコメントが書いてあることがある。こういった「ミス」を生まないためにも、官製メディアの士気を高め、「重要講話」を出さなければならなかったのだろう。

【参考記事】なぜ政権寄りのネットユーザーが増えているのか

なぜこの時期なのか?

 実は3月5日には年に一回の全人代(日本の国会に近い立法機関)が開催される。そこでは第13回五カ年計画が決議され、動き始める。しかし同時に米韓の軍事演習も始まり、北朝鮮がどう動くか気が気ではない。人民の関心は、どうしても「万里の防火壁(ファイアー・ウォール)」を越えて入ってくる壁の外からの情報に目が行く。本当のことを知りたいのだ。海外メディアも全人代取材のために中国入りするから、この時期は官製メディアを引き締めておかなければならない。

 2016年1月26日、中国政府の工信部(工業信息化部)は中国の携帯使用数が13.6億になったと発表した。一人が二つ以上の携帯を持っていることもあるので、携帯の使用数と人数は必ずしも一致はしない。しかし赤ちゃんやかなりの高齢者以外は、ほとんどが携帯を持っていると言っていいだろう。普及率は「100人が95.5個の携帯を使用している」という計算になるそうだ。

 網民の数は6.88億人(2015年末データ)。そのうち携帯でネットにアクセスする網民の数は6.20億人に達している。

 互いに携帯で通信しあい、携帯で「外界」にアクセスし、「真相」を知ろうとする。

 その力を阻むことは、もうできない。


[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

この筆者の過去記事はこちら>

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


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