中国、アメリカに踊らされたか?――制裁決議とTHAAD配備との駆け引き
ニューズウィーク日本版 / 2016年3月1日 19時45分
「いまだかつてなく厳しい制裁内容」と、アメリカ
2月25日、アメリカは対北朝鮮追加制裁決議案を国連安全保障理事会で配布した。
中国が制裁内容に合意したことに関して、アメリカ側は「これまでになく厳しい制裁内容である」「過去20年間で最も厳しい」と説明している。
中国側としては、これまで中国が主張してきた「北朝鮮の一般国民の生活に影響を与える制裁は不適切だ」ということと、「6カ国協議が前提でなければならない」という条件が満たされているので賛同したと説明している。
たとえば「輸出禁止の対象を原油全体ではなく、航空機燃料に絞る」としているし、また6カ国協議という形で対話を再開することを要請する内容も盛り込まれたとしている。
だから中国は賛同したのだと中国は説明しているが、それだけではないだろう。
水面下では、アメリカがTHAADの韓国配備を、実際上「無期延期」したからではないのだろうか。
中国はアメリカの「策」にはまったのか?
こういった流れを見ていると、今回ばかりは中国が、まんまとアメリカの策にはまったとしか思えない。
アメリカはTHAADを韓国に配備するぞと強硬な姿勢を崩さないように見せながら、韓国にも演技をさせて「THAADの韓国配備と対北朝鮮制裁決議は交換条件ではない!」と中国に対して譲歩しない姿勢を見せつけさせる。
しかし突然、「署名するのを一両日延期する」と宣言して、水面下ではやはり「交換条件」として「THAADの韓国配備は、中国がそこまで反対するなら、朝鮮半島の安定のために事実上、無期延期するので、制裁決議を呑んでほしい」と中国にささやく。
中国としてもTHAADの韓国配備を「放棄」に近く「無期延期」してくれるのなら、厳しい制裁決議に応じる方がよほどましだと思ってしまう。
そんな政治ゲームの中で、あの戦略的な中国が、まんまとアメリカに踊らされてしまったという風に見えるのである。
退路のないジレンマに追い込まれ
それだけ中国は北朝鮮に手を焼いており、いざとなったら中国自ら北朝鮮に戦いを挑み、1979年の中越戦争のように中朝戦争を起こして北朝鮮をおとなしくさせた方がましだと覚悟していたくらいだという、退路のないジレンマが中国にはある証拠だろう。
何度も触れるが、中国では年1回の全人代(全国人民代表大会、日本の国会に類似した立法機関)が3月5日から北京で開催される。
そのために非常に厳しい言論統制を行なっているところだ。
全世界から外国人記者が集まり国際社会の注目を浴びる。
その前に対北朝鮮制裁問題に関して国際社会から非難を浴びないようにしておきたいという焦りが、中国側にはあっただろう。
その焦りが、いつもは戦略的な中国を、アメリカの「策」にはまらせてしまったのではないかと、筆者には見えてならないのである。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
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