党を批判したとして編集担当者を解雇――中国「南方都市報」
ニューズウィーク日本版 / 2016年3月3日 17時30分
「中華人民共和国公務員法」の第五十六条には、行政処分として「警告、記過、記大過、降級、辞職、解雇」がある。
王海軍・副編集長は見出し決定には(直接的には)関わっておらず、監督不行き届きであったとして「記大過」(大きな過誤を記録する)という処分に留まった。
しかし直接この「風刺的な見出し」を書いた劉玉霞・編集担当者は、最も重い「解雇」になったのである。
全世界の中文メディアが一斉にこの事件を報道しているが、たとえばイギリスのBBC中文版は「"重大な事故"を招いたとして編集者を解雇」という見出しでこの事件を報道している。
これは「事故」なのだ!
アリババの馬雲氏が買い取った「南早(南華早報)」(早報:朝刊)も、「これは事故だった」と謝罪している南方都市報の謝罪文(南字「2016」5号)を載せている。
謝罪広告の名義は「中共南方報業傳媒集団委員会(中国共産党南方報道業務メディア・グループ委員会)」だ。
中国のすべての組織に存在する「中国共産党○○委員会」の中の一つである。
文字獄
大陸のネットには当初、「文字獄」というコメントが数多く見られたが、今ではほぼ削除されている。
それにしても習近平政権はなぜここまで言論弾圧を強化しているのか?
【参考記事】北朝鮮テレビから削除された劉雲山――習主席の親書を切り裂いたに等しい
それは若者たちのほとんどが中国共産党を信じなくなり、ネット社会の発展に伴い、より多くの交信ツールを使用して自由に意見交換や情報の取得をすることができるようになったからだ。
一定程度の経済力を持ち始めた層も多くなり、権利を主張するようにもなっている。
2月29日付けの本コラム「中国著名企業家アカウント強制閉鎖――彼は中国共産党員!」に書いたように、「資本翻天派」(企業経営者などとして大量の資本を集めたのちに、その資本を用いて政権に影響を与え、欧米型の「憲政の道」を歩ませようと世論を導いていく一派)という群像も生まれてきている。
「銃とペン」により人民をコントロールしてきた中国共産党政権だったが、「ペン」の力はIT化が進んだ世界では、もはやコントロールはできない。自由と民主を奪われた人々が、その「奪われたもの」を求める渇望は大きい。人は奪われて初めて、その重要性が分かるのではないだろうか。
中国共産党による一党支配体制は、経済的によりも、「精神的に」限界に来ているのである。
[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
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