「人民よ、いもを食べろ!」中国じゃがいも主食化計画のワケ
ニューズウィーク日本版 / 2016年3月4日 13時42分
【参考記事】「農村=貧困」では本当の中国を理解できない
一つはトウモロコシの問題だ。華北、西南、西北の荒涼地ではトウモロコシが主要作物となっているが、輸入品との価格競争が深刻だ。政府による買い上げで農民の収入確保をはかっているが、在庫増加も問題となっている。そこで一部をじゃがいも生産に切り替えようという発想だ。
そして、もう一つの問題が水不足。むやみやたらな耕地拡大と工業用水の需要増加、さらに水質汚染によって、中国北部では水資源が枯渇している。中華文明を育んできた大河である黄河も下流域では干上がってしまっている時期が多い。ならばと地下水の利用が進められてきた。華北では水使用量の75%以上を地下水に依存しているが、その影響で大規模な地盤沈下が起きている。北京市では地下水の水位が年13メートルのペースで低下しているとの報告もあるほか、華北平原の半分以上で地盤沈下が確認されているという。
だったら水が豊富な南部から運んでこようと、巨大土木プロジェクト「南水北調」計画が実施された。長江の水を北部まで運ぶ用水路を作る壮大な計画だが、5000億元(約8兆7000億円)という巨額の建設費を考えるとペットボトルの水よりも高くつくとの試算まである。それでも作ったのならば使うしかないが、際限なく使い続ければ、南部の水資源まで危うくしてしまう。
そこで栽培にあまり水を必要としないじゃがいもを栽培すれば、「農業用水逼迫の圧力を軽減し、農業生態環境を改善し、永続的な水資源利用を実現しうる」(指導意見)というわけだ。まるで戦時を思わせる「じゃがいも主食化」計画だが、水不足の深刻さはまさに戦争並みと言えるかもしれない。
中国共産党は人民の胃袋を支配できるか
水不足対策という中国政府の思いはよく分かるのだが、問題は国民がじゃがいもを主食としてくれるかどうかにかかっている。千切り炒めをはじめ中華料理にはさまざまなじゃがいも料理があるが、あくまで「野菜の一種」というのが大多数の中国人の感覚だ。主食としていもをもりもり食べろと言われると抵抗感は強い。
SNSをのぞくと「じゃがいもは好きだけど毎日はちょっと」「米食わないと食事した気にならないんよ」「やっぱり米が好き」「2020年にはじゃがいも生産過剰のニュースで持ちきりになってるだろうな」といった否定的な反応が目立つ。
そこで、じゃがいもの生産量を増やすだけではなく、消費量を増やす取り組みも始まっている。中国農業部は2015年にじゃがいも入りマントウ(蒸しパン)の開発成功を発表した。じゃがいも30%、小麦粉70%という配合なのだとか。一般販売を開始したというが、まったく普及してはいないようだ。
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