民主主義をかなぐり捨てたトルコ

ニューズウィーク日本版 / 2016年3月17日 17時0分

 今月初め、政府に批判的な有力紙ザマンを突然、政府の管理下に置いたトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領がなりふり構わぬ過激派対策に走ろうとしている。「西側の一員」としての顔はほとんどかなぐり捨てている。

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ジャーナリスト、学者、議員も対象に

 首都アンカラでは13日、爆弾を積んだ車両が爆発、これまでに37人の死亡が確認されている。事件を受けてエルドアンは、過激派対策法を改定し、ジャーナリスト、政治家、学者も取り締りの対象とする法案を議会に提出。「クルド人寄りの政治家がテロをそそのかしている」ので、議員の免責特権を「直ちに」廃止する必要があると演説した。

「免責特権問題に早急にけりをつけなければならない。議会は迅速に審議を進めるべきだ」──この発言が「クルド人寄りの政治家」、即ちクルド系政党・国民民主主義党(HDP)の議員の刑事告訴を視野に入れたものであることは明らかだ。

 エルドアンはさらに、過激派の定義を拡大し、過激派対策法の取締り対象にジャーナリスト、政治家、学者を入れると主張。「裁かれるべきはテロの実行犯だけではない。肩書にかかわらず、テロ行為をそそのかす人間もテロリストと定義しなければならない」


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 捜査当局は、非合法の武装組織・クルディスタン労働者党(PKK)が13日のテロ攻撃を計画したと見て、翌14日、PKKとの関係が疑われる人物の一斉検挙に乗り出した。

 トルコの国営通信社アナドルによると、国内各地で逮捕者は少なくとも47人に上った。16日にはトルコ人学者3人が「テロリストの宣伝工作」容疑で逮捕されたほか、クルド人寄りの弁護士8人も身柄を拘束された。

「テロリストの宣伝工作」とは、トルコ南東部のクルド人武装組織に対する治安部隊の攻撃を中止するよう、公式に政府に呼び掛けたこと。トルコ政府はクルド人が多数を占める南東部の一部地域を包囲し、深刻な人道危機を招いていると、クルド人組織は訴えている。

誰にとっても危険な国

 HDPのセラハッティン・デミルタス共同議長は今月に入って本誌の取材に応じ、エルドアンは「独裁体制」を固めつつあり、クルド人に限らず「トルコでは誰もが大きな危険にさらされている」と懸念を表した。

 過激派対策法改定の法的根拠について、与党・公正発展党(AKP)の法律顧問はロイターにこう語っている。「テロ行為に直接的に関わっていなくても、思想的に支持した場合、完全なテロ犯罪ではないが、やや軽度のテロ犯罪とみなせる。われわれは対策法の範囲を拡大するつもりだ」

【参考記事】アメリカがトルコのクルド人空爆を容認

 トルコの治安状況は悪化の一途をたどっている。混乱が続く隣国シリアで、クルド人武装組織「民主連合党(PYD)」「人民防衛隊(YPG)」がトルコとの国境地帯で支配圏を拡大。その影響でトルコ国内でもクルド人の分離独立の動きが活発化し、昨年7月にはトルコ軍とPKKの衝突が再燃。2年余り守られてきた停戦協定は脆くも崩れた。昨年11月には、トルコ空軍がシリアとの国境地帯に展開するPKK部隊に空爆も実施。

 84年から13年の停戦成立まで続いたトルコ軍とPKKの武力衝突では4万人余りの死者が出ている。

ジャック・ムーア

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