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アメリカの無関心がヨーロッパに戦火を招く

ニューズウィーク日本版 / 2016年3月18日 19時9分

 ノルド・ストリーム2はウクライナを経由しないので、親欧派のウクライナには20億~30億ドルに上るきわめて貴重なパイプライン通過料が入らなくなる。それに、欧州の天然ガス貯蔵施設は現在、全体の25~30%しか使われていない。パイプラインの建設は、とう見ても合理的ではない。

 ノルド・ストリーム2が完成すれば、これまでウクライナ経由で天然ガスを買っていた東欧諸国やバルト三国に対するロシアの支配確立を、ドイツは手助けできる。

【参考記事】バルト海に迫る新たな冷戦
【参考記事】ロシアが欧州に仕掛けるハイブリッド戦争

EU弱体化で独ロの利害が一致?

 つまりこれは、EUの方針とドイツならびにその同盟国の戦略的利害に反するだけでなく、意図的にEUを回避し、弱体化させようとする計画だ。

 ドイツ副首相を務めるドイツ社会民主党(SPD)のジグマール・ガブリエルは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して、ノルド・ストリーム2の建設は欧州委員会を通さずに進めるので、独ロ二国間の取引になると率直に語った。統一されたEUをバラバラに引き裂き、独ロの協力関係を築くことを目標とするプーチンには、ガブリエル副首相の発言は耳に心地よく響いただろう。

 メルケルは、ロシアの軍事的な脅威を前に、国防費の増額を唱え、毅然とした態度で制裁に同意する一方で、ノルド・ストリーム2は純粋なビジネスであって政治とは関係ないと述べている。

 しかし、経済合理性に反したこのような取引が純粋なビジネスであるはずはない。多くのドイツ人にとってこれは、東欧とユーラシアに独ロ両国が築こうとしている巨大な経済関係の基盤となるものだ。そしてこの独ロ関係は否応なく、EUおよび欧州の統合を弱体化させる。

【参考記事】ナチスをめぐるロシアとドイツの歴史問題

 イタリアは独ロ間のパイプライン拡充計画に反発した。ただしこの反発は、独ロの取引から除け者にされたことに対する不満が原因だけだったことが後に明らかになった。プーチン大統領は現在、喜んでイタリアをこの取引に参加させようとしているようだ。イタリアが仲間入りすれば、イタリアならびに欧州全体に対するロシアの影響力が増し、欧州の団結にひびが入ることになるだろう。

 アメリカが欧州に一貫して関与せず、リーダーシップをドイツ政府に丸投げしていることで、ある懸念が湧き上がる。ドイツ政治がまた西と東の間でシーソーのように揺れ動く状態に戻るか、あるいはドイツとロシアの間に存在するすべての国々を犠牲にして、フランス、ドイツ、ロシアの3極を軸とした欧州が生まれるかだ。

 そうなれば、平和で自由な欧州への希望は消える。ロシアは欧州の統合、とりわけ民主主義国家の集合体を、地政学的に見て最大の脅威とみなしている。そしてロシアを統治するプーチンが目指すのは、帝国の建設だ。帝国は、昔からしばしば、戦争を生み出すものだ。

*筆者は、米国外交政策評議会の上級研究員
Stephen Blank is a Senior Fellow at the American Foreign Policy Council.

This article first appeared on the Atlantic Council site.

スティーブン・ブランク(米外交政策評議会上級研究員)


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