注目の大使人事に隠された官邸と外務省の見えざる攻防
ニューズウィーク日本版 / 2016年3月29日 16時0分
その点、横井大使の起用は通常のパターンと言える。今の木寺昌人大使は日中関係が難しいときに着任したため、用心深くなっている中国側要人とあまり話せなかった。着任から3年半もたっており、交代は自然だ。
日中関係に前向きの気配が出てきた現在、これまで何回も中国に在勤して人脈も広い横井大使を派遣すれば、人脈と経験を駆使して中国指導部との渡りをつけてくれそうだ。安倍晋三首相ともトルコで何度も会って、気心が知れている。政治主導が言われるずっと前から、重要な国や機関の大使は外務省が首相に協議して人選してきた。今回もそうだろう。
中国大使をめぐっては、「チャイナスクールは中国に甘い」という思い込みが独り歩きし、メディアの判断をゆがめている。チャイナスクールには中国に過度の配慮を払う人もいれば、日中関係を進めることを基本としながら中国の一方的物言いにきちんと対応する人もいる。
外交方針は日本国内で決まる。大使はそのメッセンジャーであり、PRが主な仕事だ。それに、情報収集も含めて外交は大使一人だけで行うわけではない。大使が丁々発止と孤軍奮闘、能力と人格を問われる場面も随分あるが、公使や参事官などの大使館員もそれぞれの持ち場で同じような場面をくぐっている。大使交代に過重な意味を付するのは視野の狭い議論であろう。
[2016.3.29号掲載]
河東哲夫(本誌コラムニスト)
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