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最後の穏健派ケーシックがトランプを破る秘策

ニューズウィーク日本版 / 2016年3月30日 16時0分

 米大統領選の共和党指名候補争いで、ようやく1勝を挙げたオハイオ州のジョン・ケーシック知事。先週行われた地元オハイオでの予備選で圧勝したケーシック陣営は、これで戦いは「白紙に戻った」と主張した。

 選挙対策委員長のジョン・ウィーバーいわく、選挙地図は「わが陣営に圧倒的優位に塗り替えられつつある。ケーシック知事は残りの1000人近い代議員の大部分を獲得し、共和党候補に指名され得る位置につけた」らしい。だが現実は、そんなに甘くない。

 知事として現在2期目を務めるケーシックは、勝者総取り制度を採用しているオハイオでの勝利で代議員数66人を総取りした。彼は勝利後のCNNのインタビューで、「私は誰よりも代議員を多く獲得し、党大会に臨めるかもしれない」と語った。

【参考記事】#ネバートランプ! 共和党主流派の遅過ぎた?逆襲

 それには今後の予備選で代議員の大多数を獲得し、トップを走るドナルド・トランプ候補との500人近い差を埋めなければならない。だがその可能性は極めて低い。ケーシックより200人以上多く代議員を獲得しているテッド・クルーズ上院議員にすら追い付けないかもしれない。

 そこでケーシック陣営が望みを託しているのが、指名を勝ち取る条件である、代議員総数の過半数1237人を誰も獲得できないまま、7月の党大会にもつれ込むというシナリオだ。どの候補も過半数に達しなければ、勝負は決選投票へ。そこで自分こそが最良の候補者だと代議員を説得して指名候補に選ばれれば、11月の本選への道が開ける。

 トランプを阻止することに今まであまり積極的な姿勢を見せていない共和党主流派が、この大胆な策に懸けるかは未知数だ。しかも、ただでさえ支配層への不満をため込んでいる一般の共和党支持者たちは、党大会での決着は民主的ではないと激怒しかねない。

ルビオ撤退は追い風?

 ケーシック陣営がこの秘策を実現するには、今後の予備選で、特に人口の多い州で勝利しなければならない。狙いは伝統的に民主党が強い州だ。そうした州ではケーシックの穏健なメッセージが受けるとみている。

【参考記事】トランプに勝てるのはクリントンよりサンダース?

 共和党上層部が推していたマルコ・ルビオ上院議員が、地元フロリダ州での敗北を受けて撤退したことも、ケーシック陣営は好材料とみている。ケーシックはオハイオでの勝利宣言で早速ルビオの支持者に訴え掛けた。だが世論調査を見る限り、来月に予備選が行われるニューヨーク州とペンシルベニア州でルビオの支持者がすべてケーシックに流れたとしても、トランプの支持率には及ばない。

 代議員172人を擁する大票田のカリフォルニア州(予備選は6月)では、もっと分が悪い。1月の世論調査では、クルーズの支持率25%、トランプ23%に対し、ケーシックは1%だった。

 資金面でも大きく水をあけられている。1月末の時点でのケーシックの選挙資金はわずか150万ドルに対し、クルーズの資金は1360万ドルだった。トランプの場合はすべて個人資産だ。

 オハイオで勝利したケーシックは、ある程度の勢いには乗るだろう。何としてもトランプの指名だけは阻止したい勢力がケーシックの元に資金と共に集まる可能性もある。

 しかしケーシックにとって厳しい現実は、トランプの後ろにつけているのはクルーズであって、自分ではないことだ。1番手に取って代われるのは自分しかいない、と3番手が有権者を説得するのは容易ではない。

[2016.3.29号掲載]
エミリー・カデイ

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