【まんが】日本人が宗教に頼らず道徳を身につけられるワケ
ニューズウィーク日本版 / 2016年4月7日 15時57分
さくら「なるほど。でも、どうして新渡戸さんは、そんな西洋の考え方をもち出して説明しはじめるんだろう......?」
『武士道』執筆のきっかけは?
明治時代に世界で活躍した新渡戸稲造は、たくさんのカルチャー・ショック(文化の違いへの大きな驚き)を経験しました。その中でも、とくにショッキングな出来事だったと思われるのが、『武士道』の第1版の序文に書かれた、ラヴレー氏との会話です。
新渡戸とベルギーの法学者エミール・ド・ラヴレー(1822~1892年)は、あるとき宗教について話し合っていました。ラヴレー氏は新渡戸から、「日本の学校には宗教教育がない」と聞き、仰天します。欧米の学校では、聖書の物語を通じて子どもたちに道徳や倫理(人としての正しい生き方)を教えるからです。キリスト教の教義を身につけなければ、平気で嘘をついたり人を傷つけたりする、悪魔のような人間になるとまで思われていました。
新渡戸のほうは逆に、ラヴレーが驚いたことに驚きます。日本人はことさらに宗教に頼らなくても、道徳を身につけられるからです。
また、新渡戸の妻であるアメリカ人のメアリーは、ことあるごとに日本人の考え方や慣習について不思議がり、しきりに新渡戸に質問していたといいます。
【参考記事】道徳教材に「二宮金次郎」、何が問題なのか?
新渡戸は、ラヴレー氏やメアリー夫人に、日本人の生き方・考え方をもっと理解してほしいと思いました。そして、「日本では宗教の代わりに、武士道が道徳心や倫理観を育む」という結論に達し、そのことを『武士道』で主張します。
いわば『武士道』は、カルチャー・ショックから生まれた1冊なのです。
ノブレス・オブリージュとは?
武士道がどのようなものなのか、欧米の人たちに伝えるため、新渡戸は「ノブレス・オブリージュ」という言葉を用います。
これは、「高い身分の人は、それだけ多くの義務を負わなければならない」という意味のフランス語です。
権力者が好き放題に悪いことをしたら、社会はひどい状態になってしまいます。社会の秩序を保つためにも、身分の高い人は模範的なふるまいをしなければいけません。この社会的責任が、ノブレス・オブリージュです。
欧米にあるのと同じような社会的責任は、近代以前の日本にもあった、それこそがサムライの武士道だ、というのが新渡戸の主張です。欧米人に理解してもらうために、わざとノブレス・オブリージュという言葉を用いたのです。
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