庶民の物価ジョークから考える中国経済改革の行方
ニューズウィーク日本版 / 2016年4月15日 15時7分
「リコノミクス」という言葉を覚えているだろうか。中国語で書くと「李克強経済学」。李克強首相が主導する経済改革につけられた名称だ。しかし李克強の首相就任から3年、すっかり死語となってしまった。習近平政権は総書記に権力を集中する体制改革を断行し、李克強首相は経済運営の責任者ではあっても、経済改革の担当者という役割からは外されたかのように見える。リコノミクスでぶちあげられた改革プランも停滞し、忘れ去られてしまったものも少なくない。
今回は庶民の食卓、市場(いちば)の異変から中国の改革の行方を考えたい。
「炒め物が貴族の料理」「コーヒーにニンニク」
「葱爆肉(ネギと豚肉の炒め物)は今や貴族の料理だよ!」
いきなりこんなことを言われてもさっぱり意味が分からないと思うが、天津市に住む中年女性に聞いたところ、野菜市場で人気のジョークなのだとか。今年2月以来、中国各地で野菜と豚肉の価格が急騰している。ネギと豚肉の炒め物などというお手軽料理ですら高根の花になってしまったという意味だ。
【参考記事】「人民よ、いもを食べろ!」中国じゃがいも主食化計画のワケ
物価ジョークはこれだけではない。
「今時の金持ちはコーヒーにニンニクを入れるんだよ」(お茶じゃなくてコーヒーを飲むようなハイカラな人たちは、わざわざ値段が高くなったニンニクを入れることで財力を誇示している)
「向前葱」(向前冲〔突撃せよ〕のかけことば。突撃するようにネギの価格が上がるという意味)
「蒜你狠」(算你狠〔おまえのほうがすごい〕のかけことば。"ニンニク様"の値段が力強く上昇しているとの意味)
正直、日本人が聞いてもさっぱり面白さが分からないジョークだが、天津市の市場ではこれで爆笑間違いなし、なのだとか。食材価格の高騰がそれだけ庶民の関心事になっている証しだ。中国の地元紙にも「息子の大好物の角煮を週1回から月2回に減らしました」「野菜を買う時はいつも量り売りでどっさり買っていたのに、今じゃネギ1本、茄子1個とちまちま購入するように」といった「物価高騰で庶民が悲鳴」系のニュースがあふれている。
【参考記事】「農村=貧困」では本当の中国を理解できない
中国国家統計局発表の消費者物価指数でも食品価格高騰は裏付けられている。2月期の野菜価格は前月比29.9%、前年同月比30.6%と急騰している。豚肉価格は前月比6.3%、前年同月比25.4%の上昇だ。3月期の統計ではやや下がったものの、依然として高水準で推移している。
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