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パリには非常事態の延長よりやるべきことがある

ニューズウィーク日本版 / 2016年4月25日 19時24分

 ビジネスの世界ではよく、「たくさん働くのではなく、賢く働け」と言う。問題を解くには、やたらとたくさん試すより、知的に優先順位を考えて効率よく解決したほうがいいという意味だ。

 フランスの今の「非常事態」は、国家がたくさん働いて、しかし賢くは働いていない例だ。非常事態宣言はパリ同時テロがあった昨年11月13日に発動され、それから延長を繰り返して今にいたっている(政府は7月31日まで再延長したい方針)。

 パリだけで1万人以上の部隊を投入し警戒にあたっていること自体が、比較的少人数のグループが実行する犯行への対策として的外れであることは明らかだ。

【参考記事】「フランスは戦争状態」オランド大統領、非常事態3カ月延長へ

 パリの惨劇を軽く見ているのではない。イスラム過激派のガンマンと自爆テロ犯のグループが130人を超える市民の命を奪ったのだ。だが、フランスの情報機関と法執行機関が、ヨーロッパの都市でこうした虐殺行為を計画し実行する個人のグループやネットワークと渡り合うには、もっと深い問題と取り組む必要がある。

 具体的なテロの脅威と相対する際、フランス当局には敏捷さが欠けている。フランス諸都市の調査でわかったことは、パリやリヨンの郊外のようにイスラム系フランス人が多い貧困地区では、フランス警察はまったく姿がないか、そうでなければ最初から重武装の対決姿勢でやってくる、という不満を何度も聞いた。

情報を吸い上げられない組織

 情報を収集し、具体的な情報に基づいて過激派の脅威と戦い、中立化するという点でもスピードがない。昨年1月にフランスの風刺週刊紙シャルリ・エブドを襲ったクアシ兄弟の場合、近所の住人は犯行前に2人が隠し持っていた武器を発見したが、警察には通報しにくくて黙っていた、というのもその典型だ。

【参考記事】【ドキュメント】週末のパリを襲った、無差別テロ同時攻撃

 インテリジェンスと警察活動はフランスにおけるテロの根本原因と戦うために重要だ。今の非常事態体制では解決にならない。組織犯罪ネットワークはフランス全土にあり、ベルギーにも進出している。過激派の戦闘員や犯罪グループはこうしたネットワークを通じてやすやすと軍事レベルの武器を手に入れる(11月13日の襲撃で使われた銃もそうだ)。

 商店に押し入る単独の強盗からギャング同士の抗争まで、こうした武器が使われるのはフランスでは珍しいことではない。2012年、麻薬組織の豪邸で知られるマルセイユの15区と16区の摘発に軍隊が出動したのも、犯罪者たちが、軍隊でしか対抗できないような武装をしているからだ。



 住民や組織の間からインテリジェンスを吸い上げ、分析して行動に出る機動力が必要だ。住民から嫌われていては動きようがない。

『貧困という監獄 』の著書があるフランスの社会学者ロイック・バカンは、ヨーロッパ中でフランスほどインサイダーとアウトサイダーの格差が大きい国はないと言った。就職などで同じ資格をもつ白人のフランス人と比べて最も差別を受けているのはムスリムを含む少数民族だ。現にパリやリヨン、マルセイユなどの郊外の貧困地域では、若者の失業率は40%かそれ以上に上ることもある。

 これこそ政府が努力を向けるべきところだ。もちろんこれらは中長期の目標で、目下の対策としてはやはり、フランス当局にもっと賢く働いてもらうしかない。

ジョセフ・ダウニング(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス研究員)

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