米大統領選挙、「クリントンなら安心」の落とし穴
ニューズウィーク日本版 / 2016年4月27日 18時0分
実際にクリントンは、熱狂的に支持されているわけではない。米国民は、「他の候補よりも安心できるから」という消極的な理由で、クリントンを選ぼうとしているようにみえる。大統領選挙が行われた年の春の時点で比較すると、1990年代以降の選挙で敗北したどの候補者よりも、今のクリントンの好感度は低い(図表2)。それでもクリントンが大統領の座に近いのは、さらに好感度が低いトランプ氏がいるからだ。
目指すはビル・クリントンの再来
選挙の雰囲気を考えれば、クリントンが熱狂的な支持を得られていないのも無理はない。今回の選挙の通奏低音は、うっ積する有権者の不満であり、それが生み出すアウトサイダー待望論である。変化を求める機運が強く、エリート政治家は嫌われる。経済政策では、旗色の鮮明でない中道的な政策よりも、極端な政策が好まれる。外交政策では、武力行使に対するためらいが根強く、内向きな傾向がくすぶる。
クリントンは、こうした選挙の雰囲気と合致していない。究極のインサイダー、エリート政治家であり、米国民が変化を求めるには、あまりに見慣れた存在だ。夫のビル・クリントン政権の経済政策(クリントノミクス)は中道路線の代名詞であり、外交政策は残された候補者のなかで唯一のタカ派といってよい。
クリントンが「強い大統領」になるためには、米国民からの消極的な支持を、積極的な支持に変えていく必要がある。クリントンが目指すべきモデルは身近にいる。夫のビル・クリントンは、当選した1992年の大統領選挙において、春先の好感度の低さを大きく挽回した経験をもっている(図表3)。
クリントンが熱狂を呼び起こすことができれば、米国民の厚い支持だけでなく、政権基盤を強固にする舞台装置を手に入れられるかもしれない。大統領選挙と同じ日には、連邦議会選挙の投票が行われる。クリントンの勢いに導かれ、民主党が上下両院で大きく議席を伸ばす展開となれば、クリントンの政権運営は格段に楽になる。そうなれば、クリントンが強い大統領になる道が大きく開けてくるだろう。
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)
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