日本は「トランプ外交」にどう対抗したらいいのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2016年5月2日 9時30分
そう考えれば、日本でも全く相似形の感情論はいくらでも見出すことができます。例えばODAへの反発や、韓国系学校への土地提供をめぐる反発にしても、これと同じような心理が世論の核にあるわけです。
ですが現状のアメリカでは、これに加えて「アメリカだけを考えればいい」とか「世界の混乱には関わりたくない」という伝統的な孤立主義が絡んでいるので、相当にタチが悪いと言えます。
さらに問題なのは、日本を頭越しに飛び越して、中国との関係改善を企図していることです。自由と民主主義などという概念とか価値観などでは「メシは食えない」と考えるトランプとその支持者は、相互にメリットがあると思えば、中国ともロシアともズブズブの関係になることに全く抵抗がなさそうであり、これも頭の痛い問題です。
【参考記事】突如飛び出した共和党「反トランプ連合」の成算は?
トランプのレトリックの巧妙なのは、実は「カネがないので支出を減らしたい」という後ろ向きの話を「毅然とした強いアメリカを取り戻す」という威勢のいい話に「すり替え」ていることです。その「すり替え」によって世論は「コロッと」騙されている面もありますが、世論は世論で「カネがないから支出を減らしたい」という冷静な政策論を「トランプの見せかけの威勢の良さ」にかこつけて、喜んで騒いでいるという面もあります。
困ったことになりました。こうした「孤立主義」から来る「カネをケチる」方向性というのは、トランプ以外の人間が大統領になっても、多かれ少なかれ傾向としては出てくると思われるからです。
日本の場合、在日米軍に関して、これ以上巨額な駐留費用の負担を要求されるようですと、自主防衛論と一国平和論という右と左のポピュリズムが暴走して、収拾がつかなくなる危険があります。経済が苦しい今、そんなことをやっている暇はないのです。
ではどう対応したらいいのでしょうか?
1つは、アメリカとの関係における「対称性」あるいは「相互性」を、他のあらゆる分野で意識することです。
例えば、仮に今月末の伊勢志摩サミットの際に、オバマ大統領の広島献花が実現したとしたら、間隔を置かずに、安倍首相がハワイの真珠湾を訪問して、戦艦アリゾナ記念館に献花をするのです。
こうした「対等性・相互性」という外交原則をキチッと果たすということは、何よりも「トランプ的なるもの」に吸い寄せられるような人々の心にも響く行動になるからです。
もう1つは、日本が「自由と民主主義の価値観を大事にしていれば、頭脳労働を中心とした高付加価値の経済を開花させて最先端の技術と経済を実現できる」という成功事例であり続けることです。そうすれば、カネのことを考えると日本より中国が大事などという外交方針のバカバカしさに、さすがにトランプもその追従者も気づくでしょう。
どちらの場合でも、トランプ現象に驚いて、日本が右往左往するような見苦しいことはまずやめることです。
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