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アサドを利する「シリア停戦」という虚構

ニューズウィーク日本版 / 2016年5月6日 20時0分

 政権移行について不毛の交渉を続けている間にも、シリアでは軍事力を拠り所にした新たな「既成事実」が積み上げられ、戦闘の前線に沿うようにして事実上の支配地域の分割が加速している。他の軍事勢力の犠牲の上にいっそう優位な地位を築いているのはアサド政権と一部のイスラム過激派だ。



 4月中旬には、シリア国内に拠点を置く10の武装グループがアサド政権打倒を目指した「Operation Radd al-Nizam」を設立、政府軍による市民を狙った軍事攻撃に対抗する必要性を訴えた。

 興味深いのは、設立に参加したグループの中に、米軍の支援を受けて停戦にも参加している「ジャイシュ・アル・イーザ」や、自由シリア軍とつながりがある「First Coastal Division」が名を連ねている点だ。双方の動きには米政府の後ろ盾があるのか、あるいは停戦合意に基づく政権移行に固執する米国に反旗を翻しての動きなのかは定かでない。

 もし前者なら、米政府にとって停戦はもはや和平協議の進展に向けた唯一の有力な戦略ではなく、更なる軍事的圧力が必要と判断していることが分かる。もし米国の支援を受けている反体制派が思惑から外れて停戦から離脱しようとしているのなら、米国は戦闘が再燃する現状を打開するために対応を加速させざるを得ない。 

 問題の核心は、アサド政権側が反体制派との交渉で強硬姿勢を崩さず、停戦維持に必要な政治的譲歩を一切見せない点だ。

 アサド政権側の戦略は二段階構造だ。まずは、政権移行に関する一切の実質的な協議を明確に拒否する。そのうえで、表向きは歓迎されてもシリア国内の現状には何の変化ももたらさない和平協議を続け、その間に政権側の軍事優位性を高めて、停戦を骨抜きにする。

 つまり何らかの形で政権に軍事的圧力をかけない限り停戦実現は望めない。アサドの後ろ盾であるロシアにも今のところ動きはない。違反に対する取り組みが決まっていない停戦は、シリアでお決まりの外交的パフォーマンスに過ぎない。

This article first appeared on the Atlantic Council site.

Faysal Itani is a Senior Resident Fellow with the Atlantic Council's Rafik Hariri Center for the Middle East. Hossam Abouzahr is the editor of SyriaSource.

フェイサル・イタニ(米大西洋評議会中東センター研究員)、ホッサム・ アボウザハル(同「シリアソース」編集者)


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