「鉄冷え」どこ吹く風、蘇る中国ゾンビ製鉄所
ニューズウィーク日本版 / 2016年5月13日 19時9分
停止していても、山西省の昨年の粗鋼生産量は3850万トンに上る。これは英国の生産量の3倍以上だ。中国全体の生産量は8億0400万トンで世界最大となっている。
マッコーリー・リサーチは4月のリポートで、中国鉄鋼メーカーのセンチメントは過去数年で最も明るいとしている。
ファンダメンタルズの欠如
山西中升鋼鉄の製鉄所から北に車で3時間ほどにある広大な山西文水海威鋼鉄の製鉄所は、ブロートーチを使って巨大な金属製のじょうごを切断している男性2人を除けば閑散としている。製鉄所の門には警備員さえいない。
山西文水海威鋼鉄は1985年に生産を開始、ピーク時には従業員が8000人いた。だが採算が取れなくなり、約半年前に初めて閉鎖を余儀なくされた。
しかし現在、呂梁市政府は同市の主な納税者で雇用者である山西文水海威鋼鉄に生産再開を求めている。国営メディアの報道によれば、市長と副市長は3月に同社を訪れ、できるだけ早い工場再開を促している。同社はこの1カ月以上、準備に追われているという。
同市政府はコメントを差し控えた。
山西省は今週、環境改善計画の一環として、鉄鋼生産能力を高めるような新たなプロジェクトは禁止すると発表。だが現行の生産能力を維持したゾンビ製鉄所の復活は、問題になってはいないようだった。
経済協力開発機構(OECD)によれば、2015年は世界の鉄鋼生産能力の30%以上が未使用であり、世界中の鉄鋼メーカーだけでなく、中国のメーカーにとっても圧力となっているという。
とはいえ中国では、多くの製鉄所を生き返らせた活気は、上海鉄筋先物価格に現れている。25年ぶりの低成長から脱却すべく政府が債務に依存するインフラ投資を奨励するなか、同価格は昨年12月初めから今年4月終わりまでの間に80%上昇した。
建設資材である鉄筋の先物価格はそれ以降、25%下落している。フィッチ・レーティングスのローラ・ザイ氏は、同価格が昨年第4・四半期の水準にまで下がると、再開した製鉄所が再び生産を停止することになるとの見方を示した。
インフラ投資の主な目安となる固定資産投資の伸びがほぼ15年ぶりの低水準にとどまっていることから、価格の回復がいつまで続くかは疑問だとザイ氏は指摘。
「鉄鋼のようなコモディティーにとって、価格回復の真の支援材料としてファンダメンタルズは欠かせない。今年はファンダメンタルズの変化はあまり見られない」と、同氏は語った。
電気工のWang Dehuiさんにとって、再開したばかりの山西宏達鋼鉄の製鉄所での仕事は家の近くで働けることを意味するが、将来については幻想を抱いてはいないという。
「長くは続かないだろう。鉄鋼価格が良ければ生産を続けるだろうが、下がればまた製鉄所を閉めるだろう」と、Wangさんは麺をすすりながらこう話した。
(John Ruwitch記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)[襄汾県(中国) 11日 ロイター]Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます
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