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何もなかった建設予定地、中国-ラオス鉄道が描く不透明な未来

ニューズウィーク日本版 / 2016年5月16日 16時41分



 ラオスにとって、中国は最大の投資国であり、1989年から2014年まででその累計額は約54億ドルに上る。実際に、現在ビエンチャンで建設中のビルの大半には中国資本が入っている。今回の鉄道建設はラオス国内で史上最大のインフラ案件だ。総工費は約60億ドル――実に、この国のGDPの半分にあたる――で、そのうちの約42億ドルを中国が負担することになった。

 東南アジアで唯一の内陸国であるラオスは、周辺国との連結を通して経済発展を実現しようと切望してきた。ラオス投資計画部のある役人は、ラオス政府の負担が差し当たって10億ドルに満たないと聞き(中国のほか、ラオスの国有企業も別途負担するため)、懐疑的な見方を改めたと言う。鉱物を輸出するのに役立つほか、ラオス国内の農業への投資を促進することになると見込む。

首都ビエンチャンのパトゥーサイ(撮影:筆者)

 だが、ラオスでの鉄道計画は順調に進むのだろうか。2月にラオス政府関係者は、中国-ラオス鉄道の建設はまだ始まっていないと筆者に証言した。ラオスとしては、隣国タイが中国と交渉中のバンコク~ノンカイ区間の鉄道計画の建設を待っている段階だという。バンコクと接続されなければ、昆明~ビエンチャン区間の建設の意義が格段に低くなるからだ。この計画に通じている中国の鉄道関係者は2月時点で、「機械を持ち込み、春節後すぐには施工を始めたい」と言っていたのだが。

 計画の推進者にとっては頭の痛い問題が3月に浮上した。中国とタイの間で交渉が続いていた融資条件が折り合わず、タイのプラユット暫定首相が、タイ政府の自己調達資金で、当初予定の3分の1にあたるバンコク~ナコンラチャシマだけを建設すると発表したのだ。そして、残るラオスとの国境があるノンカイまでの区間は無期限延期となった。

 ラオス鉄道の建設については、中国・ラオス両国は2010年に合意がついていたものの、融資条件が決まらずに宙に浮いた状態にあった。しかし、一旦中国が「一帯一路」構想を提唱すると、計画が動き出した。中国政府は「一帯一路」の具体的プロジェクトを正式には発表していないが、東南アジアでは現地政府が中国主導のプロジェクトを推進するための合言葉になっている。

<参考記事>【マニラ発】中国主導のAIIBと日本主導のADBを比べてわかること



 昨年末に起工式が行われたもう1つの理由は、ラオスの政治動向と関連しているかもしれない。ソムサワート・レンサワット副首相はラオスでは珍しい華人政治家で、中国語も流暢だ。彼は通信衛星「ラオス1号」を含め、数々のプロジェクトを中国と立ち上げ、ラオス政府の債務を増やしてきた。なお、この副首相は、2013年9月に北京で中国中鉄という鉄道会社の国際部門幹部と共にゴルフをしていたことが確認されている。今年1月には党務から離れ、4月に副首相を交代。この鉄道計画はまさに、彼がぶち上げた「最後の打ち上げ花火」(アジア経済研究所の山田紀彦・海外研究員)と言える。中国側には、彼がいるうちに話をつけておこうという思惑があったのかもしれない。

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