財政赤字を本気で削減するとこうなる、弱者切り捨ての凄まじさ
ニューズウィーク日本版 / 2016年5月24日 18時55分
民間の医療保険に何年も保険料を払い込んだあとに病気になり、障害を抱えたため、保険金を請求したら却下されてしまった被保険者たちの例も枚挙にいとまがない。アメリカの読者にはお馴染みの話だろう。
公的ケアも削減されている。高齢者や重度の障害を抱える人々に対する地域のサービスは、2015年までに33パーセント削減された。その結果、現在までに43万3000人の成人がサービスを受け損なっている。NHS(国民保険サービス)病院に患者が殺到して危機に陥っているのもそのためだ。
【参考記事】「移民受け入れという慈善」はやめた
障害者の支援を目的に設立された「インディペンデント・リビング・ファンド」は廃止された。重い障害を抱えた1万9373人が、自立した生活を送るための給付金を直接受給する資格を失ったのだ。
「ベッドルーム税」と呼ばれる住宅補助の削減も、障害者をさらなる貧困に追い込んだ。削減の影響を受ける約42万人の障害者は平均で年728ポンド(約11万5000円)を失うことになり、多くのケースでは、家を出ざるを得ない状況になっている。
ステファニー・ボットリルは、もはや生きていけないという結論に達し、幹線道路を走るトラックの前に身を投げた。家族に宛てた遺書のなかで、自分を絶望させたのはデービッド・キャメロン首相と保守党政権であると非難している。
【参考記事】「鉄の男」キャメロンの超緊縮改革
障害生活手当(DLA)は、深刻な病気や障害を抱える人々が自立した生活を送れるよう支援するものであり、その対象者は、関節炎や学習障害、精神病、末期疾患、認知症などを持つ人々が含まれる。そのDLAはいま、個人自立手当(PIP)という新制度に移行されつつある。PIPではより厳しい基準が定められており、50万人が個人受給資格を失い、平均で年間3000ポンド(約48万円)の手当が受けられなくなる。
病気や障害で失業中の人々を対象とした給付金制度である「雇用支援手当」(ESA)もカットされた。ESAに家計収入調査を導入し、20億ポンドの出費削減を目指したのだ。そのせいで人々は、障害者になっても受給まで12カ月以上待たなければならなくなった。税金で賄われている制度にも関わらず、だ。
人々は貯金を切り崩して生活するしかなくなり、貧困に追い込まれている。ESAを受給していても、WCAの評価によって「作業」の能力があると判断されれば、週109.30ポンドというわずかな収入を30ポンド削減される。仕事に復帰できるのにしないというタダ乗りが将来増えることを防ぐため、というのが政府の言い分だ。
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