ハーバードが絶賛する「日本」を私たちはまだ知らない
ニューズウィーク日本版 / 2016年5月25日 16時7分
東日本大震災後、本線上に残された東北新幹線を清掃したときの話も感動的だ。二週間ぶりに清掃に入った新幹線はひどい汚れっぷりで、とくにひどかったのが、水が流れなかったトイレだった。
ペーパーと排泄物で溢れたトイレを、ゴム手袋をはめた手で清掃していく。そんなたいへんな作業をしながら、従業員の方々は、「こんな状況のなかにいたお客さまは大変だっただろう」と、自分のことではなく乗客のことを考えていた、というのだ。(232~233ページより)
まったく同じ話を、実際に掃除をしたおばちゃんから聞いたことがあるので、このエピソードが決して大げさなものではないことが私にはわかる。そんなことがありうるのかとにわかには信じ難く、何度も聞き返したのだが、彼女は戸惑うかのように「だって、みんな困っていたワケですからね......」と、こちらの目を見ながら答えたのだ。そのとき私が感じたのは、おそらく本書を通じて著者が伝えたかったことと同じなのではないかと思う。
日本の社会は、世界でも類をみないほど平和で安定している。金融史を教えるデビッド・モス教授(David A. Moss)はいう。
「日本はとてつもない力を秘めた国です。政治システムも安定しています。経済状態が悪くなっても、暴力的な事件や、暴動が起きるわけでもありません。日本がいかに平和で安定しているかというのは、経済問題を抱える他国と比較してみればよくわかります。日本は『平和で安定した国家をつくる』という偉業に成功した国なのです」
偉業に成功した国から、明日何が起こるかわからない時代を生き抜く指針を見出そうとしているのである。(37ページより)
【参考記事】 Picture Power:忘れられる「フクシマ」、変わりゆく「福島」
新幹線の清掃以外にも、トヨタの圧倒的な強さの秘密からアベノミクスまで、日本のさまざまな功績が紹介されていく(もっとも、後者がハーバードで取り上げられる理由に関しては個人的に理解し難く、また本書での考察も浅いように感じたが)。また、「戦略・マーケティング」「リーダーシップ」についてもそれぞれ章が立てられている。なかでも「福島第二原発を救った『チーム増田』」には、強力なリーダーシップ論として読み継がれていくべき価値があるといえる。ひとつ間違えばメルトダウンを起こすかもしれなかった福島第二原発のリスクが、リーダーであった増田尚宏所長の立ち回りによってすんでのところで食い止められたという話だ。
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