トランプのメキシコ系判事差別で共和党ドン引き
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月8日 19時50分
<詐欺罪に問われている「トランプ大学」訴訟を担当する判事を「メキシコ人」と呼び、人種差別だと批判されたトランプ。「差別ではない。友人も社員もたくさんいる」と反論するが、支持を撤回する議員が出るなど、共和党に動揺が走っている>
米大統領選で共和党の候補指名を確実にしたドナルド・トランプがまたも人種差別発言で非難を浴びている。しかも今度の発言は、トランプ支持で固めたはずの党内から離反者が出るほど深刻だ。
トランプは、自身が設立した「トランプ大学」が詐欺商法だったと元受講生らから訴訟を起こされている。その訴訟を担当するメキシコ系判事は「メキシコ人」だから、アメリカとメキシコの国境に壁を作ると公約している自分は不利に扱われていると主張したのだ。
米インディアナ州生まれのゴンザロ・クリエル連邦地裁判事をトランプが攻撃し始めたのは、判事がトランプ大学の内部情報の開示を命じた結果、詐欺商法の詳細が暴かれた直後。裁判で不利になったら、判事の祖先にケチをつけてでも裁判そのものを引っくり返そうというわけだ。
【参考記事】トランプ大学のあきれた詐欺商法が明らかに
【参考記事】「トランプ大学」詐欺訴訟でトランプに不利な判断
批判に対して、トランプは昨日出した声明でこう逃げを打った。「私のコメントがメキシコにルーツを持つ人々に対する攻撃と曲解されたのは残念だ......私はメキシコやヒスパニックの系統を持つ多くの人と友人であり、彼らを何千人も雇用している」
それでも、「トランプ大学の訴訟でこれまでに出された判断から考えると、自分が本当に公平な裁判を受けられるのか疑問に思わざるを得ない」と言う。
トランプ大学の正当性を長ったらしく主張
トランプは声明で、トランプ大学の正当性を主張するお決まりの長ったらしい論拠を列挙している。専門分野の経験が豊富な講師を自ら選んでいる(過去にもそう主張しているが、これは嘘だ)、受講生の意見調査では評価がよかった、満足できない受講生には返金した......。
クリエルに関するトランプの差別発言には、ライバルの民主党はもちろん共和党からも批判が相次ぎ、昨日はマーク・カーク上院議員(イリノイ州選出)が共和党議員として初めてトランプ支持の撤回した。
「民主党候補のクリントンには反対だが、ドナルド・トランプの最近の発言、ヒスパニックや女性、私のような身体障害者に対する過去の発言も照らし合わせて考えると、もう限界だ」と、カークは言う。「私の選挙や共和党にどのような影響が及ぼうと関係ない。私は共和党の大統領候補を支持できないし、今後も支持するつもりはない」
主張や信条などの明らかな相違にもかかわらず、先週になってようやくトランプ支持を表明したばかりの共和党の大物、ポール・ライアン下院議長は、今回のトランプ発言に関しては、候補者本人が人種差別主義者であるか否かは別にして「教科書的な人種差別発言」「遺憾」としながらも、トランプ支持は変えないという苦しい説明をしている。
【参考記事】トランプに「屈服」したライアン米下院議長の不安な将来
共和党の大統領候補として人種差別主義者のトランプを支持するという苦渋の決断は、早くも党の存立基盤を揺るがし始めたのか。
最後に、クリエルの父親はメキシコ人だが、トランプの母親がスコットランドからアメリカに移住するより前からアメリカに定住している。
From Foreign Policy Magazine
デビッド・フランシス
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