天安門事件は風化へ、中国社会は「娯楽とエゴ」へ
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月9日 11時52分
例えば、2015年6月には四川省広安市隣水県で数万人が参加する大暴動が起きたが、高速鉄道建設計画の改定により同県が路線から外されるとの噂が発端だった。高速鉄道開通による不動産価格上昇を見込んでいたのに、大損をこいてしまうという怒りが暴動を引き起こしたのだ。
また、今年春には浙江省や湖北省の複数都市で数千人規模の抗議デモが起きているが、これは貧困地域の支援策として「大学入学枠」を東部から中西部に譲渡するという中国政府の計画に反発したものだ。
もともと中国の大学入試制度はいびつで、大学がたくさんある東部地域は入学枠が多く、中西部地域は入学枠が少ない。結果として、同じ学力ならば裕福な東部地域の学生のほうがいい大学に入学できる仕組みとなっている。このいびつな仕組みを是正しようとしたところ、「うちの子が大学に入れなくなるかもしれない」と反発を受けたというわけだ。身近な問題から次第に大きな公共の問題へと関心が向かうどころか、逆に地域エゴが強化されている印象すら受ける。
天安門事件の追悼運動はどこへ向かうのか
2000年代に高まった期待は空振りに終わり、天安門事件の"記憶の風化"は今や一線を越えたかのように思える。知識として天安門事件について知っていても、今の豊かな社会が実現したのだから中国共産党のやり方は正しかったと考える若者すらいる。八方ふさがりに見える状況で天安門事件の追悼運動はどこへ向かうのだろうか。
あるいは、この状況に一番自覚的なのは王丹氏かもしれない。5日の集会では「これは過去の話」「私の前半生を紹介してきたが、後半生はより素晴らしいものにしたい」と話していた。台湾で教鞭をとる王丹氏は、学生たちに市民運動の重要性を説き続けているという。学生たちの目的や認識がたとえ間違っていようとも、社会に参与しようと試みる行為そのものは称賛するべきだと訴えていた。
記憶を伝えるのではなく、社会と向き合う態度やその重要性を伝えることに情熱を燃やす王丹氏に今後の可能性を感じた。
[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
この記事に関連するニュース
-
ハーバード、コロンビア、MIT…超名門大学の「ガザ侵攻抗議デモ」がトランプ支持者から冷笑されている背景
プレジデントオンライン / 2024年5月21日 6時15分
-
中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日本に続々、本当の日中友好は逃亡者がつくる
ニューズウィーク日本版 / 2024年5月18日 21時2分
-
日本の高校で中国人留学生が増え続ける仰天事態 過当競争の中国と少子化ニッポンの利害が一致
東洋経済オンライン / 2024年5月18日 7時30分
-
在留外国人の4人に1人が中国人 天安門事件で「特別運用」、近年は制限なしの永住者急増 「移民」と日本人の平成史④
産経ニュース / 2024年5月11日 11時0分
-
中国「五・四運動」105年「建国」75年…そしてもう一つの節目とは?
RKB毎日放送 / 2024年5月3日 17時8分
ランキング
-
1アイルランドなど欧州3国、パレスチナを国家承認 ハマスは歓迎
AFPBB News / 2024年5月22日 19時30分
-
2パレスチナを国家承認へ 欧州3国、イスラエル反発
共同通信 / 2024年5月22日 22時19分
-
3ロシア国防省、バルト海の領海線見直し案削除 周辺国の懸念表明後
ロイター / 2024年5月23日 0時6分
-
4ウクライナ軍、ロシアのミサイル艦「ツィクロン」撃破…全てのミサイル艦破壊と主張
読売新聞 / 2024年5月22日 22時32分
-
5全裸絶叫男、湖畔の公園でジョギング中の女性殺害 スイス
AFPBB News / 2024年5月23日 10時8分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください