アンドロイド美女が象徴するIT社会の深い不安感 人工知能SF『エクス・マキナ』
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月10日 16時0分
別種の監視もある。13年、エドワード・スノーデンの内部告発により米国家安全保障局(NSA)の情報収集の是非を問う議論が高まった。「あの事件はIT企業と政府の怪しい関係に、世間の目を向けさせた。企業と政府の結託は警戒したほうがいい」と、ガーランドは言う。
『エクス・マキナ』には不安な時代ならではの深い不安がにじむ。自分が実験に利用されていることにケイレブが気付くくだりは、フェイスブックが無断でユーザーの投稿を操作して心理学の実験を行い、非難を浴びた事件を連想させる。
ネイサンはAIが人類の能力を超える日を待ち焦がれている。「いつの日かAIは、私たちが化石を見るような目で人類を見るだろう」と、彼はケイレブに予言する。
そんな日が来るのはまだ先の話だろう。ユーザーの質問に答える秘書アプリのSiri(シリ)は今や日常の一部だが、エバのようなAIを作るのは夢のまた夢だとガーランドも認めている。
それでも映画界ではAIが人気。スカーレット・ヨハンソンがAIの声を演じた『her/世界でひとつの彼女』(13年)はアカデミー賞脚本賞を受賞した。ヨハンソンは14年の『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』でも行きずりの男を誘惑する「人間ではない女」に扮している。
【参考記事】人工知能が加速させるボイス革命
『エクス・マキナ』はその流れに乗る一方で、人工的な人間を作る実験の恐怖を描く映画の系譜にも連なる。古くはジョン・フランケンハイマー監督の『セコンド/アーサー・ハミルトンからトニー・ウィルソンへの転身』(66年)、最近では外科医が完璧な皮膚を作ろうとするペドロ・アルモドバル作品『私が、生きる肌』(11年)がある。
もっとも『エクス・マキナ』の天才プログラマー、ネイサンはグーグルやフェイスブックのようなIT帝国の経営者だから、キャラクターとしてはぐっと現代的。今や――SFではなく現実の――世界を支配するのは彼らのような人々なのだ。
【映画情報】
EX MACHINA
『エクス・マキナ』
――
監督/アレックス・ガーランド
主演/ドーナル・グリーソン
アリシア・ビキャンデル
日本公開は6月11日
[2016.6.14号掲載]
ザック・ションフェルド
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