欧州への難民は減った。しかし難民危機は去ったのか? その現状と課題
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月14日 16時10分
このような条件付けに対してはPRO ASYLなどの難民支援団体から統合の目的に反するとの異議も提出されており、様々な立場から議論が行われているのが現状であるが、少なくとも同法にはドイツ政府の統合への積極的な取り組みと意志とを見出すことが可能であろう。
もちろん新たに支持を伸ばしつつある「ドイツのための選択肢」党やPEGIDAのような排外運動の伸長が示すようにドイツ社会でも難民を巡る亀裂は拡大しつつあり、移民統合へ向けた安定的なコンセンサスが存在しているとは言えない。それでもこの新法制定への動きは、難民危機の最初の波の収束とともに、次の段階へ向けて大規模な実際的対応が開始されつつあることを示している。
EUの難民危機がもたらす課題は折り重なり、安易な解決を許さない。それだからこそ危機を過大に評価することも過小に評価することも避け、現実的な解決策を探る様々な取り組みへと目を向ける必要があろう。
[筆者]
佐藤俊輔
東京大学法学政治学研究科博士課程を満期退学後、EUの基金によるエラスムス・ムンドゥスGEM PhDプログラムにより博士研究員としてブリュッセル自由大学・ジュネーブ大学へ留学。2016年4月より獨協大学・二松學舍大学・立教大学で非常勤講師。専門はEUの政治、ヨーロッパ政治、移民・難民政策。
佐藤俊輔
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